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(2) 事例にあらわれた問題点

以上の事例を分析すると、当該外国船舶の船長の違反行為につき、(a)刑法や漁業法等の実質的犯罪の現行犯逮捕等逮捕の目的で追跡を行い、当該犯罪で逮捕・処罰されたものとして1]2]6]7]8]が、(b)停船命令に応じず逃亡したことを、つまり漁業法に規定された検査妨害罪の現行犯を逮捕する目的で追跡し、実質的犯罪で逮捕・処罰されたものとして3]4]5]がある。また、(c)追跡中の海上保安官の職務の執行を妨げたことにより処罰されたものとして3]4]5]6]8]があり、このうち、(d)検査妨害罪の現行犯目的で追跡されたものとして3]4]5]が、巡視船上の海上保安官に対する公務執行妨害罪の成立を認めたものとして3]4]5]8]が、巡視船から被追跡船舶に移乗した海上保安官に対する公務執行妨害罪の成立を認めたものとして6]があるが、6]の事案は追跡に係る公務員の職務の執行を妨げる行為に対する罰則の域外適用を定めた新領海法が適用されたものである。さらに、(e)我が国領海外で犯された犯罪につき、日本と大韓民国との間の漁業に関する水域の設定に関する法律において、この法律の定める漁業に関する水域(専管水域)にて大韓民国又はその国民が行う漁業に関しては日本国の法令を適用すると規定されていることを根拠に、公務執行妨害罪とともに艦船往来危険罪の成立を認めたものとして8]が、新領海法第3条所定の公務員の職務の執行を妨げる行為には傷害罪が含まれることを認めたものとして6]がある。

この中でとくに問題があるのは、(b)(e)の場合である。

まず、(b)のような場合に関連して、漁業法他海事関係法令中、検査妨害罪の規定がある場合には、漁業法違反により現行犯逮捕が可能な場合にも、まずは法令の励行を目的とする立入検査を理由として停船を命じ、相手船がその命令を拒否して逃走した場合には、次の段階として、検査妨害罪の現行犯逮捕を行う目的で強制的に停船させるといった実務上の運用がなされているが、これについては、すでに指摘されているように8、行政調査としての立入検査を犯罪捜査のために用いるもので適当でなく、また本来、漁業法違反で逮捕・処罰すれば足りるとする批判が妥当する。さらに、いまだ犯罪の嫌疑が十分でなく、あるいは当初は法令の励行のために立入検査を行おうとした際に、相手船が拒否したので、検査妨害罪で現行犯逮捕するために、強制力を行使して停船させ捜索を行ってはじめて漁業法等の違反が明らかになったというような場合には、立入検査は犯罪捜査のための端緒として用いられていることになる。

8 田中利幸「海の手続法」『松尾浩也先生古稀祝賀論文集下巻』(1998)709頁。

 

 

 

 

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