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5] 第2クムへ号事件(福岡地裁小倉支判平成4・10・14)6

(違反行為地─領海内、継続追跡地─領海〜公海、逮捕地─公海上)

韓国漁船の第2クムへ号が領海内にて違反操業を行っているのを巡視船が現認し、漁業法第74条第3項に基づく立入検査を実施しようとしたが、同船がこれを忌避して領海外に逃走したため、同法第141条第2号の検査妨害罪の現行犯逮捕の目的で継続追跡したところ、同船乗組員らが巡視船上の海上保安官に対し、ワイヤ止め金具、乾電池等を投擲する等の暴行を加えたことにより(巡視船から韓国船に移乗した海上保安官に対する公務執行妨害罪の点は起訴猶予とされた)、同船船長が外規法の領海侵犯操業罪、漁業法の検査妨害罪及び刑法の公務執行妨害罪に、同船乗組員らが、公務執行妨害罪に問われ、有罪とされた事例。

6] 第3満久号事件(長崎地判平成10・6・24判時1648・158)

(違反行為地─新領海法に基づく領海内および公海上、継続追跡地─領海─公海、逮捕地─公海上)

新領海施行令による新領海線の内側にて韓国漁船第3満久号の違反操業を発見し、外規法の領海侵犯操業の罪で検挙する目的で巡視船が同船を追跡した上、海上保安官らが接舷・移乗して被告人らを逮捕しようとした際、逮捕を免れるため、船長及び乗組員らが共謀の上、公海上を航行中の同船上において海上保安官に暴行を加え、傷害を負わせた事件につき、船長が外規法の領海侵犯操業罪に、さらに乗組員らが船長とともに公務執行妨害罪及び傷害罪の共謀共同正犯に問われ、有罪とされた事例。

(ロ) 領海を越えた地点からの追跡(接続水域からの追跡)

7] フェニックス号事件(長崎地判昭和45・4・30刑裁月報2・4・417)

(違反行為地─領海を出た地点、逮捕地─公海上(現行の接続水域内))

日本人女性の甲女は、アメリカ人の夫乙とともに、外国船舶であるヨット、フェニックス号に乗船して、旅券に出国の認印を受けずに本邦外に出国したため、旧出入国管埋令上の不法出国罪(甲女につき正犯、乙につき幇助犯)の容疑で領海を出た公海上で巡視艇に現行犯逮捕された。その際に、巡視艇は、フェニックス号の出港当初から追尾しながら、出港と同時に同人らを出国を企てた罪で領海内で停船命令を発しこれを逮捕できたにもかかわらず、慎重を期して、領海内においては甲女につき同女が有効な旅券の発給を受けずに出国すれば不法出国になるため直ちに航行を中止し、適式な手続きを経て出国をするよう単に勧告を繰り返すにとどめ、領海を出るや犯罪が成立したものとして直ちにこれを逮捕したものであったが、裁判において、本件逮捕に際し、フェニックス号を追跡していた巡視艇が領海内において停船信号を発した事実が認められなかったため、逮捕は追跡権行使の要件を欠く違法の疑いがあるものとされた。

6 山下隆之「刑法の域外適用─海上保安官の立場から(上)─」捜査研究530号47頁以下。

 

 

 

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