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3 国家責任と国内的救済

 

(1) 国内的救済完了の原則

(イ) 国が国に対して責任を負うという意味での本来の国家責任を果たすための方法としては、わが国の国家賠償法に基づく被害者の救済はなじまないであろう。国連海洋法条約第106条にいう「十分な根拠なしに行われた海賊船舶の拿捕」のように、拿捕国が被拿捕船舶の旗国に対して賠償責任を負う場合には、直ちに、被害者に対する救済を内容とする国家賠償法が出てくる余地はないからである。

しかし、ある国の国家責任を追及するためには、さらに「国内的救済完了(exhaustion of local remedies)の原則」を考慮しておく必要があろう。わが国において海上犯罪の取締りの関連で国内的な救済が与えられるとすれば、国家賠償法に基づくと考えられるからである。国家が、外国によって自国民又は自国船舶の受けた損害について、外交保護権を行使し、加害国に対して国際的請求をするためには、まず、当該自国民又は自国船舶が相手国の国内において認められている損害救済のための手続きを尽くしていることが必要とされる(15)。まず、損害について、管轄権を持つ国家の手に委ね、それによって救済を与えるのが順当であり、被害の事実や損害額については現地の救済機関による確認が適当である。特に重要なことは、当該国家の主体的な立場をできるだけ尊重し、私人の問題が容易に国際紛争に転化するのを防ごうという趣旨であるとされ(16)、この原則自体は広く国際的に認められているといわれる。したがって、我が国の海上犯罪取締りに関連して、被害者又は被害船舶に対する賠償が問題となるときは、国家賠償法に基づく賠償が問題とされることになろう。その意味で、冒頭に紹介したトンウ号の事故が国家賠償の事件として取り扱われたことは、この流れに沿うものであった。

(ロ) ところが、国内的救済完了原則の適用にあたっては、適用要件の問題がある。国内的救済完了の原則が適用されるためには、被害者と加害国との間にあらかじめ一定のリンクが存在していることが必要とされる。被害者が自らの自由意思に基づいて加害国の管轄権のもとにあるという主観的要件を要求したり、当該損害又は損失が加害国の管轄権内で発生するという客観的要件が必要とされる(17)。しかし、この要件をどのようにとらえるのであれ、国連海洋法条約第106条及び第110条(3)あるいは第111条(8)が想定

 

 

 

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