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しているのは、国家管轄権外の公海上における海上警察権(執行管轄権)の行使であって、そのかぎりで、国内的救済を尽くさなくても、直ちに執行国の責任を問うことが可能と考えられる。現に、先に見たオットセイの共同保存措置に関する英米の仲裁裁判は、国内的救済を尽くしたうえで提起されたものではないとされている。冒頭に述べたトンウ号事故は、領海外で発生したものであり、直ちに国家賠償法の適用があったとみるか否かは検討の余地がある。

(ハ) 従って、国内救済完了の原則は、本項で問題にしているような海上犯罪の取締りに関連して、常に要求される原則であるとは言えないと考えられるが、そのような国際法上の問題だけではなく、我が国の国家賠償法に定める救済システムそのものが、海上犯罪の取締りに当たって有効に機能するのかどうかを検討しておく必要があろう。

(2) 国家賠償法に基づく国内法上の救済

(イ) 先に指摘したように、海上犯罪の取締りに当たって、外国人又は外国船舶に損害が発生し、これを国内法によって救済するとすれば、第一に考えられるのは国家賠償法である。しかし、その損害がわが国領海内やわが国船舶内で発生した場合を除いて、国家賠償法が適用になるかどうかが問題となる。特に、平成8年に制定されたEEZ及び大陸棚法は、領海外のわが国EEZ及び大陸棚に係る水域がわが国の領域外にあることを考慮して、「EEZ又は大陸棚に係る水域における我が国の公務員の職務の執行」(同法第3条第1項第4号)について我が国の国内法令の適用を明示しており、この規定に基づいて国家賠償法の領海外への適用が根拠づけられているとすれば、逆にそれ以外の事項や公海上の問題には国家賠償法の適用はないと解することができるからである。

また、国家賠償法は、「外国人が被害者である場合には、相互の補償のあるときに限り、これを適用する」(同法第6条)と規定し、相互補償のあることを適用の条件としていることをどのように解するかも問われることになると思われる。

 

 

 

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