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(ロ) そして、「追跡権の行使が正当とされない状況の下に(in circumstances which do not justify the exercise of the right of hot pursuit)領海の外において船舶が停止され又は拿捕されたときは、その船舶は、これにより被った損失又は損害に対する補償を受ける」と規定している(国連海洋法条約第111条(8))。この文言上は、領水内からの追跡を想定しているが、規定の性格上、接続水域、群島水域、EEZ及び大陸棚からの追跡にも準用されることになろう。

前述の国連海洋法条約第106条の海賊容疑の拿捕又は第110条(3)の臨検に伴う賠償又は補償の問題は、犯罪容疑の根拠を欠く執行権行使の責任が問われていたが、本条に基づく責任は、追跡権行使が正当でない場合として、追跡が許容されない状況全般を問題にしている。言い換えるならば、違法な追跡権に伴って被追跡船舶に生じた損害及び損失を補償するよう要求しているものである。その意味では、違法な追跡権を抑止しようという趣旨の規定であると解される。

(ハ) 追跡権について、公海条約第23条とそれを引き継いだ国連海洋法条約第111条は、追跡開始要件として、追跡開始地点や聴覚的・視覚的停船信号など細かい規定をおいている。しかし、追跡権は、沿岸国法令の実効性を確保するために古くから認められてきた慣習法上の執行権行使であり、領海外の外国船舶と沿岸国の連結性をめぐって、その範囲と要件は常に見直されてきたといわなければならない。接続水域からの追跡、解釈上の存在(constructive presence)などが論じられ、特に最近の薬物の密輸などに対応した追跡権の新たな動向が認められるところである。さらに、EEZ及び大陸棚水域からの追跡にあっては、従来の領水からの追跡とは異った追跡権の内容と要件が問われることになると思われる(14)

 

 

 

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