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これに対し、沿岸国の法益は、旗国の管轄権の行使によって、必ずしも確保、回復されないから、旗国の管轄権の行使があったからといって、沿岸国による権利の行使の必要性がなくなるわけではない。しかし、旗国の管轄権行使の手続に、沿岸国の管轄権行使の代理行使としての性格をも含めることができれば、旗国の管轄権の行使だけで足ることになる。

(6) このように管轄権が競合する場合、その優劣を整理する必要が生じる。その整理は、同時に、管轄を認めた根拠、管轄権行使によって確保、回復される法益の優劣の整理でもある。国連海洋法条約は、この点に関して、次のような技術的な整理を行い、その意味は次のように理解される。

まず、沿岸国の排他的経済水域で船舶に起因する汚染を行なった船舶が沿岸国の港に任意に入港し、沿岸国の処罰を含む手続が進行するとき、沿岸国に対する著しい損害に関するものである場合であっても、ボンド(保証金)による早期釈放を認めなければならないものとされた(条約第220条第1項、第226条第1項b号)。その限りで、船舶の航行の利益、その意味で旗国の管轄権が一時的に優先されるが、沿岸国の管轄権は消滅するわけではなく、またボンドによってもそのことは保証されている。旗国が手続を開始したとしても、それに基づいて沿岸国の手続が停止、終了させられ、あるいはボンド(保証金)の返還が必要となる事態が生じることはない(条約第228条第1項但書)。その意味で、沿岸国の管轄権は、少なくとも旗国の管轄権に対して二次的なものというわけではない。

それに対し、旗国の管轄権は、ボンド(保証金)による釈放までは沿岸国の管轄権の行使に対し介入することはできない。その意味で、常に沿岸国の管轄権に対し優先されるわけではない。しかし、沿岸国の手続が終了するまで待たなければならないわけではなく、ボンド(保証金)による早期釈放は、旗国の一時的優先を意味する。また航行が終了しても、沿岸国の手続を旗国の手続に優先させなければならないわけではなく、更に、旗国が自国の法律に従って罰を科す手続を含めて措置をとる権利は、他の国による手続のいかんを問わないとされている(条約第228条第3項)から、その意味で、少なくとも沿岸国の管轄権に対して二次的なものというわけではない。

 

 

 

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