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そうすると、この場合は、沿岸国の管轄と旗国の管轄とは、主従あるいは第一次的第二次的という関係ではなく、並立的な関係にあると整理できよう。

その意味で、両管轄権によって保護しようとする排他的経済水域における海洋環境に関する沿岸国の法益と国際社会の法益とは、並立的に保護されているということもできよう。しかし、沿岸国の管轄権行使によって国際社会の法益も確保、回復できると考えることができると、沿岸国の法益の保護、そのための沿岸国の管轄権が第一次的なものと考え、条約第228条第3項の規定は、事実上沿岸国が管轄権を行使しないかできない場合を担保する規定と考えることもできないではない。

(7) 次に、沿岸国の排他的経済水域で船舶に起因する汚染を行なった船舶が沿岸国の港に任意に入港し、沿岸国の処罰を含む手続が進行するが、沿岸国に対する著しい損害に関するものでない場合には、ボンド(保証金)による早期釈放を認めなければならない(条約第220条第1項、第226条第1項b号)ばかりでなく、旗国が手続を開始すると、それに基づいて沿岸国の手続が停止させられる事態が生じる(条約第228条第1項)。その意味で、この場合は、旗国の管轄権が沿岸国の管轄権に優先する。のみならず、条約は、旗国の手続が完了すると沿岸国の手続は終了し、ボンド(保証金)を返還しなければならないとされている。そうすると、沿岸国の管轄権は旗国の管轄権を補充する性質のものに過ぎないものとなってしまうのではないか、ボンド(保証金)は究極的には旗国の手続を担保するための制度なのか、もしそうだとすると、沿岸国の排他的経済水域に沿岸国の環境に関する利益を認めたことを沿岸国の管轄権の根拠とすることと矛盾しないかが、問題となる。

この点に関しては、次のふたとおりの整理が可能である。ひとつは、沿岸国の管轄権の根拠はあくまで、沿岸国の排他的経済水域における主権的権利と領海とに関係の深い排他的経済水域での沿岸国の法益の保護に求められ、ボンド(保証金)は沿岸国の手続を担保するものであるが、沿岸国の損害が著しい場合とは異なり、旗国により有効に執行する義務の不履行が繰り返されている場合でない限り、旗国によって代理処罰がなされれば足ることから、条約上そのように処理されることを、締約国として承認したと理解することであろう。

 

 

 

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