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(5) 排他的経済水域における海洋環境の保護に関する、国際社会全体の法益と沿岸国の法益との関係は、一般的に言って、沿岸国の手続によって、沿岸国の法益が確保され、侵害された沿岸国の法益が回復されれば、それを通して、国際社会全体の法益は確保、回復されたといえるが、沿岸国の手続以外で国際社会全体の法益を確保、回復する場合、具体的には旗国の手続による場合は、沿岸国の法益の確保、回復に対する配慮を行うことはなくまた不可能であるから、その手続によって、沿岸国の法益は確保、回復されないというものである、と考えられる。

旗国の管轄権と沿岸国の管轄権との関係は、同一の根拠から発生し同一の目的を達成するための相互に補充的なものでない限りは、それぞれ独立のものであって、一方が行使されれば他方の目的も自動的に達成されるというものではない。

旗国に他国の排他的経済水域における自国船舶による海洋環境の汚染に対する管轄権が認められる根拠は、公海の場合と同一であって、公海の自由に基づき他国の干渉を排除して自国船舶の保護を図るという点に求められ、国際社会も、そのような各国間の利害調整のあり方を前提にして、即ち船舶に対する旗国の管轄権の枠内で、その管轄権のみかえりとして、海域を問わず旗国船舶に対する規制を義務づけることによって、海洋環境の保護および保全を達成しようとしているものと理解される。これに対し、沿岸国に管轄権が認められるのは、その排他的経済水域の環境の保護に、沿岸国の法益の存することを新たに認めたことに由来するのであって、旗国に管轄権の認められる根拠とは異なる。すると、旗国の管轄権と沿岸国の管轄権とは、互いに、一方が行使されれば他方の行使の根拠や必要性が失われるものではない。

しかし、常に両方の管轄権の行使が必要になるというわけではない。排他的経済水域における海洋環境の保護および保全に対する沿岸国の法益と国際社会の法益との関係について述べたように、国際社会の法益の確保、回復は、沿岸国の法益の確保、回復によっても基本的に達成されるものであるとすれば、沿岸国の管轄権が完全に行使されれば、旗国において管轄権を行使する実質的な必要はない。

 

 

 

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