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第三は、各国に旗国主義に基づく管轄の設定を義務づける方式である。この方式が、これまで海洋法に関しては一般的であった。

第四は、各国に旗国主義に基づく管轄の設定を義務づけるとともに、各国に普遍主義に基づく管轄権設定を権能として認める方式である。この方式は、権能を行使する限りにおいて、複数の国の管轄が競合するから、その限度で第三の方式よりも理論的には効果的である。この方式では、権能を認めるため、特定国の法益という要素が混入するようにも見えるが、普遍主義によるため、特定国の法益とはならない。しかし、国際社会の法益という観点からは、排他的経済水域を公海と区別する根拠に乏しい。この方式も採用されてはいない。

以上の場合とは異なり、排他的経済水域の性格に着目して、沿岸国という特定国に管轄権設定の権能を認めるのは、国際社会の法益以外に、沿岸国という特定国の法益を認めるということである。

(4) 国連海洋法条約が採用した方式は、従来の第三の方式に代えて、旗国主義に基づいて旗国に管轄の設定を義務づけるとともに、沿岸国という特定国に、排他的経済水域という沿岸国の利益と密接に関連する海域について、執行管轄権を認めるという方式である。この方式は、(3)に述べた第二の方式とは異なり、沿岸国に管轄の設定を義務づけるものではなく権能を与えるものであるため、沿岸国の法益を認めたという性格を否定できないと思われる。なぜなら、国際社会全体の法益の保護という観点から見ると、保護されるべき海洋環境という点では、公海と排他的経済水域とで異なるところはないから、公海においてはその保護を、旗国主義に基づく義務づけという形式で、旗国に管轄を独占させることで実現しようとしているのに対し、それとは異なり、公海と区別された排他的経済水域という海域における管轄権を沿岸国に認めるという方式を採用したということは、国際社会全体の法益とは別の法益、沿岸国の法益を認めたと理解されるからである。

そのため、排他的経済水域においては、海洋環境の保護に関して、国際社会全体の法益と沿岸国の法益とが共存していることになる。また、管轄に関して、旗国の管轄権と沿岸国の管轄権とが共存していることになる。そこでこの二つの共存の関係を整理することが必要となる。

 

 

 

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