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排他的経済水域は、従来はこの公海の一部であって、特定の事項以外ではなお公海としての性質を失うものではない。ただ、その特定事項のひとつとして、海洋環境の保護が認められているという事情があることが、国際社会全体の法益の保護と考えられる公海とどのように異なって理解されるべきであるのかが、ここでの問題である。

(3) まず、排他的経済水域において船舶に起因する汚染から海洋環境を保護することを、公海と同様に、専ら国際社会の法益を保護するものと捉えることは可能であろうか。この問いに対しては、排他的経済水域を公海から区別したこと自体から否定的な結論が導かれるわけではない。国際社会の法益を一層効果的に守る枠組みを、特定の海域について、その海域の性格に着目して、構築することは不可能ではないからである。

国際社会が、排他的経済水域において、沿岸国という特定国の法益ではなく、専ら国際社会の法益を守るものと考えたとした場合、その目的を達成するために、各国に管轄を設定する方式には、次のいくつかのタイプが考えられる。その場合、基本となるのは管轄を義務づけるということである。

タイプの第一は、最も積極的な方式で、各国に普遍主義に基づく管轄の設定を義務づけることである。この方式では、対象となる海域全般に各国の管轄が重畳的に及ぶから、少なくとも理論的には最も効果が期待できる。海洋法に関してこの方式はまだ採られていない。また、国際社会の法益という観点からは、排他的経済水域を公海と区別する実質的根拠に乏しい。

第二は、各国に旗国主義に基づく管轄の設定を義務づけるとともに、特定国たとえば沿岸国に排他的経済水域に関して属地主義に類似した管轄を義務づけることである。この方式では、旗国と沿岸国という二国の管轄が重なるから、その限度で効果が高まる。ここでは、特定国という、国際社会を離れた、それだけ特定国の法益に近づく要素が入っているが、しかしそれが義務づけられているため、特定国の権能を認めるのとは異なり、特定国の法益ではなく、国際社会の法益を実現する手段として理解されうるという性質をなお有している。特定国に義務づけるというこの方式もまだ採られていない。

 

 

 

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