日本財団 図書館


うが少額であれば、一層である。手続主体にとっても、証拠の収集のコストが少なく、被疑者が争わなければ訴訟上のコストも少なく、そうだとすれば、違反行為により処罰の対象となる乗組員は自国民であり、担保金も自国企業に返還されることになるから、被疑者と同じような判断に傾くことも考えられないではない。また旗国としての責任を強調する姿勢をとれば、一層積極的に手続を遂行するであろう。

担保金による早期釈放の制度を施行して以降2年余りの実績では、排他的経済水域での違法排出事例30件余りのうち便宜地籍国の船舶によるものは3分の2にまではなっていない。内水、領海、排他的漁業水域の違法排出総計100余りのうちでは、便宜地籍国の船舶による割合は約半数である。

(2) そこでもし、旗国の停止要請が増加してくると、我が国における執行のインセンティブが低下しないか。低下すると、国連海洋法条約以前の旗国通報の体制に戻ってしまわないかが、第一に問題となる。第二に、旗国による処罰の実態が我が国と著しく異なるとき、費用請求などの措置や対応を考える必要がないかが、問題となる。第三に、停止要請はどの段階でも応じなければならないかも問題である。これらの問題を考えるにあたっては、国連海洋法条約が沿岸国に排他的経済水域において船舶から生じる汚染に執行管轄権を認めた根拠という国際法上の問題と、我が国が採用した担保金の性格という国内法上の問題との、両面に着目する必要がある。

国連海洋法条約が、船舶から生じる汚染に関して、排他的経済水域における海洋環境の保護及び保全について沿岸国に執行管轄権を認めた根拠の問題は、根拠を、排他的経済水域の環境という沿岸国の法益を認めたことに求めるか、国際海洋環境の保護という国際社会の法益を効果的に保護することに求めるかということである。言い換えれば、排他的経済水域の環境は、沿岸国の法益か国際社会の法益かということである。

排他的経済水域における海洋環境の保護は、国連海洋法条約ではじめて、公海における海洋環境の保護から区別されて、独立して認められたものである。公海は、いずれの国にも属さない海域で各国が自由に共通に利用できる海域であるから、その海洋環境の保護は、特定国の法益の保護というのではなく、国際社会全体の法益の保護であると考えてよい。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION