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6月8日、旗国である韓国から外務省に対し、S号所有者および被疑者に各500万ウォンの罰金が科され、支払いがなされて、手続が完了したので、国連海洋法条約第228条に基づいて、出頭義務の解除と担保金の返還を求める旨の、5月29日付の口上書が提出されたとの通知が海上保安庁になされ、口上書の写しとともに、第八管区海上保安本部経由で浜田海上保安部に送付された。

(3) 翌9日、浜田海上保安部は、担保金を提供した日本代理店を通じて被疑者に、出頭の必要のない旨を通知した。6月24日、松江地方検察庁浜田支部に、本件事件が、一件書類とともに送致された。7月17日、わが国に裁判権のなくなったことを理由に、不起訴処分がなされた。これを受けて、7月28日、担保金が返還された。

 

4 手続の停止と担保金の返還から生じる将来の問題

 

(1) 韓国籍コンテナ船S号違法油排出事件は、我が国が国連海洋法条約を批准し、それに伴う国内法を整備した後、初めて発生した担保金の返還事件であり、その後それに続く事件が発生しているわけではない。便宜置籍船の場合は、今後も旗国からの停止の要求と担保金の返還請求があまり生じるようには思われない。違反行為により処罰の対象となる乗組員は旗国の自国民でなく、担保金も旗国の企業に返還されるわけでもなく、旗国にしばしば寄港するとも限らないから、海洋環境の保護に特に積極的に取り組もうとし、その態勢の取れる便宜地籍国でない限り、旗国が積極的に手続を開始する理由に乏しく、実際上の困難も大きいからである。

しかし、韓国船、中国船、ロシア船など近隣国が船籍国である船舶の場合には、問題が一般化する可能性がある。被疑者にとっては、自国で処罰される方が手続的な不利益は負担感が少ないであろうし、同じ罰金を支払うなら自国に支払う方がよいと感じることもあり得よう。罰金額も、彼我の経済事情を考慮すれば、多少でも日本で科されるよりも自国で科される方が低額ならば、その方がよいとの判断も行われうる。担保金の額に比べて罰金額のほ

 

 

 

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