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約第217条に定められたとおり、旗国は自国船舶の違反に対しては海域を問わずそれを規制する法令の制定を行っているから、旗国において刑罰規定の適用が行われることも生じうる。このような場合の沿岸国の手続と旗国の手続とを調整しているのが、冒頭の1の(2)に示した条約第228条の規定であり、そのうちの第1項の手続の停止、終了と保証金の返還の適用をみたのが、韓国籍コンテナ船S号違法油排出事件である。

 

3 韓国籍コンテナ船S号違法油排出事件

 

(1) 韓国籍コンテナ船S号違法油排出事件の経過は、次のようなものである。

1997年12月14日、島根県沖の我が国の排他的経済水域を航行中の韓国籍のコンテナ船S号が油を排出しているのを、海上自衛隊航空機が発見し、第八管区海上保安本部に通報がなされた。当該海域を担当する浜田海上保安部から連絡を受けた航行中の巡視船が、当該船舶を確認し、関連情報の提供を受けた後、同日、任意に浜田港に入港したS号を、浜田海上保安部が捜査したところ、S号三等機関士が、ビルジを処理するに際して、油水分離器の油面計レベルスイッチの作動を誤った過失によって、油分120リットルを含むビルジ約311リットルを当該海域に排出したものであることが判明した。

そこで、浜田海上保安部は、翌15日、S号の船舶国籍証書等を押収するとともに、担保金の提供によって速やかに関係書類の返還がなされ航行が可能になること、および担保金の額は100万円であることを告知した。同日、日本代理店から担保金の提供がなされたため、出頭期日を1998年6月16日から6月22日まで出頭場所を浜田海上保安部と指定して、S号の航行に必要な書類が返還され、S号は韓国へ向けて出航した。

12月24日、国連海洋法条約第231条にしたがって、わが国の採った措置を旗国宛て通知するべく、海上保安庁から外務省に措置通報がなされた。

(2) 翌1998年5月7日、S号の旗国である韓国から外務省に対し、本件事件について法的手続を開始したので、国連海洋法条約第228条に基づいてわが国の手続の停止を要請する旨の、3月31日付の口上書が提出されたとの通知が海上保安庁になされ、口上書の写しとともに、第八管区海上保安本部経由で浜田海上保安部に送付された。

 

 

 

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