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我が国の港に入港しないときには、停船させて自ら捜査を行うのではなく、旗国に通報することが行われている。それは、MalPol条約体制化で積み重ねられてきた実務とその実績を継承する現実的な処理であるが、同時に、これまでのところ事案が我が国の沿岸・関係利益または領海・排他的経済水域の資源に著しい損害をもたらすおそれのある場合にあたると判断する姿勢をとらしめるまでには至っていないことを意味しているのかもしれない。

(4) 入港後の捜査で、違反事実が確認されると、事件を検察庁に送致し、起訴、裁判という順で、刑事手続が進行するのが、基本であるが、条約第12部第7節の規定、より具体的には第226条第1項b号に従う、という条約第220条の定める制約を受けて国内法上整備された、海洋汚染防止法第65条以下の規定により、担保金の提供による釈放の手続が介在する。すなわち、取締官たる海上保安官は、担保金またはその提供を保証する書面が提供されれば、違反者の釈放、船舶・船舶国籍証書・押収物の返還が行われること、および提供すべき担保金の額を、船長及び違反者に対して、告知する。担保金の額は、事件の種別及び態様その他の情状に応じ、政令で定めるところにより、主務大臣の定める基準に従って、取締官たる海上保安官が決定する。担保金が支払われると、釈放、返還がなされる。

この担保金は、訴訟手続のための出頭保証金として制度設計されたために、違反者が求められた出頭期日に出頭すると返還され、違反者には刑事手続が再開される。担保金の提供による早期釈放制度の施行後二年余りで、領海での違反の事例を含めた数値であるが、約1割が出頭している。出頭後補充捜査が行われ、起訴猶予となったものもある。裁判で刑が言い渡された場合、罰金額は担保金額よりもやや低額である。それは、刑事手続としてみる限り、命令を遵守した被疑者がその後の手続的な不利益をも被るのであるから、それとして均衡がとれているとも理解されるが、手続主体からみると、更に負担が必要となり不均衡を感じることも理解できないではない。しかしそれは、担保金の性格決定に由来する制約として理解されるほかない。

(5) こうした過程で外国船舶に対して執られた措置は、条約第12部第7節の第231条の規定によって、旗国に通報される。この場合、旗国は自国船舶の自国領海・排他的経済水域を越える海域での違反事実を知ることになるが、条

 

 

 

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