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国際法上、外国船舶に対する執行が沿岸国の領海を越える海域においては一般に制限されていた国連海洋法条約以前の時代には、外国船舶から領海を越える海域に排出がなされたときには、第55条の規定の適用は制限されるものであったと解釈される。それは、刑罰規定適用の基本原理である属地主義、旗国主義が基本的に妥当し、刑法第8条但し書きの特別の規定を解釈上読み込もうとするのは無理があると考えられたためである。ただ、一部の裁判例で、外国船舶に乗り込んだ日本人清掃員が、事件当時の公海現在では排他的経済水域にあたる海域において、油を排出した事案に属人主義を採用してこの規定を適用したものがある。

その当時の結論としては疑問が残るが、国連海洋法条約が第220条で、沿岸国に領海を越える海域である排他的経済水域にある外国船舶に対する執行管轄権を認め、第218条では、入港国の領海・排他的経済水域を越える海域で行われた違反についても入港時には執行管轄権を認めた、現行の体制のもとでは、海洋汚染防止法第55条を、領海を越える海域で外国船舶から油の排出が行われた場合にも適用することの、国際法上の条件は整ったということはできよう。そうすると、海洋汚染防止法の他の刑罰規定の適用範囲との比較や国際法の変化に伴う国内法解釈の変更などで整理すべき点は残されてはいるが、外国船舶が我が国の排他的経済水域で油を排出した場合に、この規定を根拠に、沿岸国に認められた執行管轄権を行使することも認められないではないであろう。

(3) 国連海洋法条約の規定に従って、排他的経済水域における外国船舶からの油の排出に対し、沿岸国としての執行を海上保安官が実施する場合、一般には、排他的経済水域で油が排出されていることを上空などから発見すると、当該油を採取し、油の軌跡から航跡をたどり、被疑船舶を特定し、当該船舶が排他的経済水域または領海を航行中であれば、船舶識別・船籍港・航路・違反事実に関連する情報の提供を求め、予定の寄港地を確認する。我が国の港に入港予定であれば、入港後に、条約第220条第1項に従って、捜査を実施する。外国の港に寄港した後我が国の港に入港する場合も同様である。

 

 

 

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