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とポセイドン号との関係が公海条約23条3項の要件をみたす関係にあることを当局が確認していたことからも追跡の中断はなかったとした。さらに、ポセイドン号が一度も他国の領海内に入っていないことを理由としてポセイドン号への追跡の継続を認めた。

停船命令がVHF無線を用いて行われたことについて、公海条約23条3項の「追跡は視覚的または聴覚的停止信号を当該外国船舶が視認し、または聴くことができる距離から発した後にのみ、開始することができる」という規定は絶対的な条件ではないとする。国際無線規則が要求するVHF無線16チャンネルの傍受は現在船舶の標準的なコミュニケーション手段であり、信号の発信時に当該船舶に近接して3機のヘリコプターが飛行していたことからも適切であったと判断して、1958年当時から技術は発達しており、法はそのような変化を考慮に入れなければならないとして、このようなメディアで信号を発したことは、条約上の追跡権の行使の要件に合致するものであるとした。

(ハ) 問題点

国連海洋法条約は108条において、公海上の船舶が国際条約に違反して麻薬および向精神薬の不正取引を行うことを防止するための協力義務を規定している。しかし、外国船舶に対して公海上で乗船、臨検捜査、拿捕を行う権限を認めてはいない。そのため、特別の条約に基づくか外国船舶の旗国の同意がある場合以外はそのような強制措置をとることはできない。また、国連麻薬等ウィーン条約の該当規定(17条)も同様である。

一方、客観的属地主義をとれば、国外で開始され内国で結果が発生した犯罪について、その構成要件に該当する事実の一部が内国に存在する場合にはこれを国内犯とみなすことができる(6)

これらの諸点を本件にあてはめると、イギリスはポセイドン号の旗国セント・ヴィンセント・アンド・グレナディーンにポセイドン号拿捕についての事前の同意を得ておらず、その限りにおいては当該拿捕は航行の自由の侵害にあたるといえる。他方、裁判所が採用したように、ポセイドン号とデルヴァ

 

 

 

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