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ン号とを公海条約23条3項の「母船とこれと一団となって作業する舟艇」の関係にあるものととらえると、ポセイドン号の行動は、デルヴァン号が行った大麻のイギリス国内への持ち込みという犯罪の一部分を構成することになるため、イギリスによる管轄権行使を正当化できることになる。従って、本件に追跡権を適用できるかどうかが問題となる。

まず、ポセイドン号とデルヴァン号とが「母船とこれと一団となって作業する舟艇」の関係にあるかどうかが問題となる。これは一般にconstructive presence理論と呼ばれる理論の適用の問題である。この理論は、追跡が開始される場合に、犯罪が犯された地点が沿岸国の管轄水域でなければならないとする要件を、母船自体は水域の外にあっても、そのボートが水域内にいるときに追跡が開始されれば、擬制によって母船にまで追跡権が及ぶとするもので、19世紀末から20世紀初頭にかけてのロシア、アメリカ沿岸での漁業および密輸の取締りの実行からでてきたものである。この理論に関しては、母船とそのボートとの関係について、ボートが母船から発せられたものでなければならないとする狭く解する説と、ボートが母船から発せられたものでなくとも、事前連絡を行っている場合のようにコントロールが同一であれば適用可能とする広く解する説とがある。広く解する説は1920年代のアメリカにおける酒の密輸に関連して形成されたものである。この説は、アメリカの国内判例においても母船とボートとの関係を認めないものが多く、学説的にも批判が多い(7)。公海条約を起草した国連国際法委員会においても、狭く解する説が採用された(8)。しかし、一方で、第1次海洋法会議では公海条約第23条に関して、1項は原案の説を維持したが、3項において現行の「被追跡船を母船としてこれと一団となって作業する舟艇」という文言が挿入されたために、広く解する説をとる可能性が出てきた(9)。最近では広く解する説をとる国内裁判所の判例も見られ(10)、本件判決の根拠のひとつとなっている。

次に、ポセイドン号とデルヴァン号との関係を一団となって作業する船艇と見た場合でも、ポセイドン号に停船命令が出されたのはデルヴァン号とその乗組員がとらえられてから長時間が経過しており、また、停船命令が発せられた地点は公海上だったという点が問題となる。判決では、追跡開始時の

 

 

 

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