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準として算定される場合には、保証金の額が違反者にとって支払い不可能な額になって、海洋法条約の要求する早期釈放が行われない可能性があると思われる。また、同法では違反に用いられた船舶、装備および捕獲された魚の没収が規定されているが、被告人以外の所有物を没収する場合が考えられるため、第三者没収との関係で手続き的に船舶等の所有者の権利について配慮するばかりでなく、没収が行われる可能性のある場合の保証金の額や、没収される物と保証金との関係についての論理の準備が必要であろう。

(2) 追跡権に関する事例

追跡権は、旗国主義を原則とする公海において、沿岸国がその国内法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由がある外国船舶を継続して追跡する権能である。海洋法は、公海自由原則への侵害を最小限にするために、追跡権行使の要件を定めている。

麻薬取引等の犯罪の取締りを公海上で沿岸国が行う場合、旗国主義を前提とする公海では、特別の条約上の基礎あるいは旗国の同意がない限り他国船に対して取締りを行うことはできない。事前連絡を行って公海上で禁制品の積み替えを行う場合のように、一方の船舶が沿岸国の管轄水域に入域せずに犯行に加わる場合、沿岸国がそのような船舶に対して強制措置をとろうとすれば、沿岸国の秩序に与える影響を理由に管轄権を行使することになるが、当該船舶の旗国の管轄権を侵害することになる。追跡権が援用できる場合、旗国はその限りで沿岸国の管轄権行使に異議を唱えることができない。

近年の技術の進歩、違反手口の巧妙化によって、追跡権の行使要件もそれに対応することが必要になっている。すなわち、追跡権を援用できる対象船舶を、母船とそのボートとの関係に着目して、沿岸国の管轄水域に入域していない船舶にまでおよぼそうとする解釈的拡大、最新機器の使用を許容する権限行使態様の拡大などである。

以下の事例は、イギリスの国内裁判所が、追跡権行使の要件を拡大することによって、イギリスの管轄水域に入域することなく麻薬の不正輸入に加わった外国船に追跡権の法理を適用することを認めたものである。

 

 

 

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