日本財団 図書館


ナミビア法の罰金規定は新法の導入によって大幅に引き上げられているが、これは、排他的経済水域の制度を導入する際に各国に見られる趨勢である。海洋法条約が漁業法令違反に身体刑を科すことを禁止していることから、罰金の額を引き上げることによって違反防止の効果を上げることを期待していると見られる。罰金の額が高額の場合、この判決のように、罰金を支払うことのできない場合に拘禁を行うことを容認すれば、事実上、海洋法条約の身体刑禁止規定は機能しないことになる。前述のように、無許可で操業するものに対する沿岸国法令への歯止めはないとする見方もある。たとえば、インドネシアやマレーシアでは、排他的経済水域法に漁業法令違反に対する身体刑の規定はないが、漁民の収入に比べて非常に高い罰金が規定されているために、実質的に罰金の支払いができない場合が多くなっている。たとえば、1987年にマレーシアに無許可操業でとらえられたタイ漁民532名のうち、罰金を支払ったものは1名のみで、残りはすべて不払いのために拘束されていると言われる(4)

海洋法条約の身体刑の禁止規定は、排他的経済水域制度の保護法益が沿岸国の経済的利益であるために、違反の処罰も罰金刑が妥当であると考えることがひとつの理由であるが、このような、罰金を非常に高額に設定する傾向が生じるのは、身体刑を罰則として規定できないために、違反の抑止の効果を罰金額の増加で確保する意図があるものと思われる。その場合、特に、違反が、沿岸国の設定した入漁条件違反ではなく無許可操業である場合、高額の保証金や罰金の支払いが不可能である場合が多いと考えられる。ナミビアの事例は判決の中にはじめから罰金の支払いが行われない場合に身体刑を科すことを予定したものであり、無許可操業の場合には、罰則の規定に身体刑がなくとも、この判例のように事実上身体刑を科すのと同様の効果があるきびしい沿岸国の対応が生じることになる。

我が国も、「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」18条で罰金額を引き上げているが、周辺諸国との貨幣価値の違いから見ても同様の問題が生じる余地が考えられる。また、保証金の性質を被告人の出頭確保のためのものとするとしても、保証金の額が罰金額を基

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION