日本財団 図書館


れは海上における権限行使では、停船命令を発し得ることは当然の前提としての論であり、判例もこのような考えで述べられているものが多いように思われる。

このように見てくると、停船命令は、行政法にいう許可や認可のような行政行為、つまりは行政処分として認識されているのではなく、従って、停船処分と表現する場合でも、その処分は、現実の手順を分かり易く言い換えたものであって、法律行為としての処分ではないと理解しているように思われる。それでは、現行の庁法に規定する、「進行を停止させ」ることが認められている場合に、一般的に使われている「停船命令」はどの様に位置付けられるのか。停船は可能であるが、停船命令を発する根拠は薄弱であるから停船命令は実は命令ではなく、停船を要請または要求しているという、単純な意思表示でしかないのかは問題である。それは権限でなければならないはずである。

先に見たように、漁業関係の法律に基づく省令には、停船命令を発し得る旨の規定があるが、これは元の法律に委任規定がなく、国民に義務を課すものであるから法治主義に反し、違法ではないかとの議論もあった(15)

しかしながら、海上取締り、海上秩序の維持の細目については、直接法律が規定することは必ずしも必要ではなく、取締権等を規定する特定の行政法令を所管する行政官庁によって制定された法令及び規則により明確にされるべきが立法の常識であるとするならば、それは法律の執行手続に関するものであり、行政作用の範囲に含めても、特にそのために基本権の侵害になるわけではないとして、漁業法令の規定の仕方を肯定することもまた可能であると考えられる。それは法律の委任の範囲内であるかどうか、そして、執行の細目にすぎないから、所管行政官庁に任された範囲のことであるのかどうかという問題になると思われる。そうであるなら、庁法のように明確に船舶の進行停止をなし得る規定を法律事項として置いている場合は漁業法令のような疑義は生じないので、庁法に基づいて停船命令を発するとするなら、それは法律の根拠が存するという解釈になる。

このようにみてくると、「停船命令」は、臨検や立入検査の流れの中の一場面、連続する手続きの中の一態様であるように思われる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION