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次に条約は、「停船命令」や「停船信号」についても規定する。これは、「停船せよ」「停船されたい」という追跡側の意思が表示されればよいということであって、現実に被追跡船が停船命令あるいは停船信号を認識しあるいは理解したことを要件とはしていないように読める。しかし、「視認し又は聞くことができる距離から発」することが必要である。実際に、視認しまたは聞くことができたかどうかではない。視認できる距離内であれば視覚信号でよく、聞くことができる距離であれば聴覚信号でもよい。夜間に「L旗」は見えないのであり、気象・海象にもよるが、自船のエンジン音もあり、海上では音声は聞こえにくい。ただ、1項の「停船命令を受ける時」とは、意味の認識を伴わなくても、なんらかの意思表示としての信号であることを、被追跡船側で認知しているということが必要であるようにも思われる。しかしながら、被追跡船側の認識を要件とすると、さらに複雑な問題を付加することになるであろうから、その場の気象海象を加味した合理的と考えられる距離以内から、停船信号が発せられることが要件であろう。そして、その場合の距離的な問題について、それを証拠に残すことは、やはり条約上の要件ではないけれども、その合理性を証明するために、なんらかの記録を残しておくことが望ましいのではないかと思われる。いずれにせよ、事実上相手船が了解を示したか否かは問わないと解される(9)。そこで、次に国内法に係る「停船命令」について整理をしておきたい。

(2) 山本草二、海洋法243頁。

(3) 例えば、海洋法条約の締結に伴う国内法制の研究第3号の条約111条の解釈(国司彰男)では、継続追跡権の適用される犯罪の範囲はその行使場所の沿岸国法令の適用範囲と、犯罪の性質によって異なっている。領海では追跡権の対象となる犯罪はその形成過程からみると、主として関税法、漁業法、安全防衛に関する問題であった。が、現在では原則として、すべての犯罪に適用される。しかし、追跡権の実力的性格(拿捕、抑留、直接強制)からみてその許容される対象犯罪は、国内犯罪として強制手続きの対象となるような実質犯である(98頁)、とする。

(4) 海上保安事件の研究・国際捜査編88頁。

 

 

 

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