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具体的には、犯罪の客観的徴表を要求しているが、犯罪の証拠まで必要ではなく、合理的な疑いで足りるものとされ、従って、我が国の刑訴法上の逮捕の要件である「相当な理由(6)」ほどの基準は要求されていないと解されている。

海洋法条約第111条第4項は、「追跡は、被追跡船又はそのボート若しくは被追跡船舶を母船としてこれと一団となって作業する舟艇が領海又は、場合により、接続水域、排他的経済水域若しくは大陸棚の上部にあることを追跡船舶がその場における実行可能な手段により確認しない限り、開始されたものとされない。」と規定している。被追跡船が領海や内水に存在することと、その確認は、継続追跡を実施するに際しての重要な要件である。それゆえ、そこでの位置の確認は、実施可能なあらゆる手段で行う必要がある。1930年のハーグ法典編纂会議の規定は「方位、六分儀の角度又は同様の手段」を掲げているが、設備・機器の進歩した現代においては、これらの外、レーダー、NNSS、GPS、オメガ等の電波計器も重要な手段となる。このように、位置の確認は継続追跡開始の重要な要件である。領海からの追跡であれば、被追跡船又はそのボートが領海内にあることが必要である。ではそのことの証明は必要とされるのか。つまりは位置確認の証拠化の問題である。位置の確認はあらゆる可能な手段で行う必要があるが、位置確認の証拠化は条約上の義務とはされていない。しかし、追跡開始の合法性を証明するためにも、実務上は、できる限り明らかにしておく必要がある。状況の記録、被追跡船の位置の適時なプロット、著名物標を背景とした写真やビデオの撮影、レーダー映像の撮影、各計器のハードコピー等を証拠化しておくことが望ましい(7)とされている。

次に、条約の規定は、追跡は、視覚的又は聴覚的停船信号を外国船舶が視認し又は聞くことができる距離から発した後にのみ、開始することができるとする。具体的手段としては、視覚信号として、国際信号旗「L」旗(You should stop your vessel instantly.)の掲揚、手旗または発光による信号、垂れ幕等の利用があり、また、聴覚信号として、拡声器による音声信号、汽笛またはサイレン等による音響信号がある(8)

 

 

 

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