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とすると、本件逮捕は追跡権行使の要件を欠く違法の疑いがあるものといわねばならない」として、停船信号等で停船を命じることと、それを書面(明確な証拠)で証明できるようにしておかなければならない。そうでなければ、追跡権行使の要件が欠けているから、継続追跡権行使とは認め難くなる、ということを明らかにしたものということができよう。

それでは次に、国連海洋法条約第111条の解釈について、先達の研究成果を参考にしながらその概略をみておきたい。

 

3. 国連海洋法条約第111条の解釈

 

条約第111条の条文によれば、沿岸国は、その国内法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由のある場合には、外国船舶を公海上まで継続して追跡する権能が認められる。当該船舶が国内法令に違反していることと、違反を信ずるにたりる十分な理由がある場合が、継続追跡権の発生要件である。追跡される外国船舶は、公海自由と旗国主義を援用して、この追跡と取締りを免れることはできない。この追跡権(right of hot pursuit)は、本来は、沿岸国の国内法令の実効性を確保するため、その領域主権に服する内水・領海内で開始された管轄権行使の継続を認める、という趣旨(2)である。

継続追跡権発生要件の一つである国内法令違反とは犯罪のことであると解する見解(3)が多い。沿岸国が継続追跡権を行使する場合の前提となる外国船舶の犯罪の種類については特に限定されないと考えられている。先例として扱われできたものの多くは、漁業、関税、財政に関する法令違反であった。しかし条約の条文は「法令に違反した」とするだけで、犯罪を制限しているものでない。法令違反であるから、我が国の国内法の問題として考えれば、法令には政省令が含まれる。例えば、船舶法施行細則第43条は、「船舶ハ左ノ場合ニ於イテ国旗ヲ後部ニ掲グベシ」とする。海上保安庁の船舶や航空機から要求されれば、国旗を掲げなければならないのであるから、これに反すれば、条約に規定する法令違反と解してよい(4)と思われる。従って、継続追跡権は、沿岸国の法令に違反するすべての行為について行使しうると解すべきことになる(5)

違反したと信ずるにたる十分な理由とは、沿岸国の権限機関の主観的判断(単純な推測等)では不十分で、合理的理由が必要である。

 

 

 

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