日本財団 図書館


確かに国際法は遵守されなければならず、法の適性な手続きによる裁判も保障されなければならないが故に、当裁判所も第7回公判期日において、本件逮捕が追跡権行使の要件を充足していない疑いがあり、そのような違法な疑いのある身柄拘束下で作成された被告人両名の供述調書についてはその証拠能力を否定したのであるが、右逮捕手続き段階における瑕疵がひいて憲法31条の精神に反するものとして公訴提起行為自体まで無効ならしめるものとは認めないので、この点に関する弁護人らの主張は採用できない。

さて、(1)事件の判例では、判決文の中で、「国連海洋法条約111条所定の要件を満たす適法な追跡行為」であることを認めているが、本件の追跡行為の開始の要件や追跡の方法、信号等について、争いがなかったせいか、具体的に触れるところがない。「巡視艇『N』に乗船していた同保安部職員が第3満久号による判示第1の漁業行為を発見し、外国人漁業規制法違反で検挙しようとしたが、同船は被告人の命令により逃走を始めたため、右『N』がこれを追跡し、同保安部所属の巡視船『I』もこれに合流して追跡を続けたが」とするのみである。判決は、国連海洋法条約111条所定の要件を満たした追跡であることを認めた上で、公海上の外国船舶内での、海上保安官が行う公務の執行を妨害する罪の成立を、領海及び接続水域に関する法律第3条の規定を根拠として認めるという筋道になっている。

第2の事件で問題となった、不法出国の罪については、その既遂次期との関係で、そもそも継続追跡権を主張することができないものであったということができる。しかし、判決の中で、「本件逮捕に際し、『フェニックス号』を追尾していた巡視艇『T』が領海内において停船信号である『K旗』を掲げたり、拡声器等で停船を命じたとの事実は、追跡権に基づく逮捕の要件中最も重要なものというべきこの点につき、出発から逮捕の地点迄の追跡の状況を明らかにするため作成された前掲実況見分調書になんらの記載がないこと。領海2.7乃至2.8マイルの地点でK旗を掲げる等停船命令を発した旨の海上保安官の各証言はその根拠となる確実な書面上の記載を欠くうえ、後記逮捕の経緯からみて結局疑わしいものと断ぜざるを得ないことなどから考え、これを認め難い。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION