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て船橋内から船橋後部の通路に出て、左舷階段から登ろうとしているDをめがけて右同様の角材を振るい、船橋によじ登ろうとしているBに対し、ウインチ部分に突き落とすよう押したこと、被告人Zも、「操舵室に上げさせるな」との被告人Xの指示により、船橋通路左舷側から、右同様の角材を振り回したことが認められ、これに一部反する被告人らの公判廷における供述は信用できない。

(2) 事件 フェニックス号事件(昭和45年4月30日長崎地裁判決、刑事裁判月報昭和45年度第2巻第4号417頁。)

(事実の概要)

被告人Xはアメリカ国籍の人類学者で、被告人Yは、Xの妻で現在日本国籍を有する者である。被告人両名は、日本、中華人民共和国(以下「中共」と略)及びアメリカ合衆国との間の友好親善促進の目的で前記ヨット「フェニックス号」により中共を訪問するため同国に渡航することを計画し、第1、被告人Xは、日本人が本邦を出国する場合有効な旅券に出国の証印を受けなければ出国できないにもかかわらず、昭和43年9月10日、旅券に出国の証印を受けずに長崎港から中共上海へ向け、被告人Xの操縦する前記ヨット「フェニックス号」に乗船して出港し、同日午後0時33分領海外に出て本邦を出国し、第2、被告人Xは、前記第1記載の日時場所から被告人Yが有効な旅券に出国の証印を受けずに本邦外に出国するにあたり、その情を知りながら、同人を前記ヨット「フェニックス号」に乗船させて出国し、もって被告人Yの犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(判旨)

弁護人らは、被告人両名は公海上で且つ外国船舶であるヨット「フェニックス号」上で逮捕されているが、原則として我が国の主権の及ばない公海上にある外国船舶を拿捕し、その乗員を逮捕するには、公海に関する条約23条に規定する追跡権の行使に該当する場合でなければならないところ、本件「フェニックス号」上における逮捕については、追跡権行使の要件の内、「外国船舶が追跡国の領海内にあるとき追跡が開始されたこと。追跡は視聴覚又は聴覚的停止信号を当該外国船舶が視認し又は聴くことができる距離から発した後にのみ開始することができる。」

 

 

 

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