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しかし域外適用が規定されていることから、本邦外のいずれかの時点で犯罪が既遂に至っていると見るべきとすれば、集団密航者を輸送する船舶が本邦外のいずれかの水域に到達し、本邦に向けての輸送であることが明確となった時点で輸送罪の既遂を認める必要がある。取り締まりの実効という観点から見れば、接続水域に到達した時点で実行の着手を認め、領海に入った時点で既遂とするのが合理的であるようにも見える。

しかし接続水域について執行管轄限定説をとる場合には、実体法の罰則規定が域外適用されているいないに拘らず、少なくともまだわが国領海内に船舶が入域する以前の段階では、立法管轄を及ぼすことができないことになる。そうなるとそもそも「本邦に向けて輸送」した場合であっても、これを処罰できるのはせいぜい容疑者が輸送行為を行った後に何らかの理由で本邦内に所在するのを発見された場合、あるいは既に本邦に密航者を上陸させた後に逃亡中の容疑者を乗せた船舶が領海あるいは接続水域内で発見された場合に限られることになってしまう。確かにこうした輸送罪を域外適用することによって、犯罪の一般的な予防効果に期待することができるのであれば、それでよいということになるのかもしれないが、輸送罪にもとづく刑事管轄権が接続水域に留まる船舶には適用されないというのであれば、犯罪処罰の実効は著しく弱められるおそれがある。とくに営利目的でこうした輸送に携わる者が、国内における共謀者と謀議の上、接続水域内の海上で密航者の受け渡しを行うことにより、わが国国内に立ち入ることなく営利を達成できるとすればなおさらである。また当該船舶が直接わが国陸土に接岸して密航者を上陸させようとして本邦に向けて輸送している場合、接続水域内では容疑船舶を発見しても単に接続水域外に「排除」できるだけである場合には、それら船舶は機会をみて目的を達成しようとするであろうから、結局、出入国管理によって保護しようとする内国法益が危険に晒されるのを待つ以外ないということになってしまう。こうして集団密航という新たな形態の出入国管理の侵害行為をとらえて、集団密航罪を密航の幇助犯としてではなく独立の犯罪類型として処罰を重くしたこと、また集団密航者輸送罪の規定を設け国外犯処罰を可能としたことの立法趣旨が損なわれる結果になりかねない。

 

 

 

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