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3. 国外犯処罰規定と「内国性」の解釈的拡張

 

以上見てきたように、接続水域における取り締まりが、単に当該水域からの不審船の排除だけでなく、船舶の拿捕、引致、犯罪容疑者の逮捕、密航者の本国送還など、より実効を確保できる多様な措置によってなされうるようにすることの必要性が強まっているにも拘わらず、国際法上の接続水域制度の性質についての考え方の対立があるため、わが国の執行機関は接続水域内での法令執行について非常に慎重な立場を維持している。そのため犯罪処罰の実体法が犯罪者集団による組織的な密輸や集団密航などを有効に規制する目的で改正されたにも拘わらず、海上における取り締まりには依然として限界がある。

接続水域におけるin-comingの船舶についての沿岸国の規制権限に関しては、既に述べたように、執行管轄限定説と立法管轄拡張説とが対立するが、たとえ後者の立場を取ったとしても、わが国の法令の保護しようとする法益と関連した実行着手時期の設定、予備罪の範囲、国外犯処罰規定の有無、また海上保安庁の権限、刑事訴訟法の適用範囲など、関連法令の規律のあり方次第で接続水域における法令執行が常に可能であるとは限らない。しかも接続水域について、4法令が特定されているとはいえ、それら法令については包括的にその立法管轄を接続水域に及ぼすことを認めることが妥当であるかについては、接続水域制度の歴史的な発展の経緯、あるいは接続水域があくまで公海(あるいは排他的経済水域)としての地位をもち、従って外国船舶の自由通航に相当の配慮を必要とすることなどの点からみて、疑問がある。確かに諸外国において接続水域での法令執行が行われる例は必ずしも少なくないが(25)、しかしそれらの場合でも、接続水域での管轄権行使が認められている4つの部類の法令を一律に適用しているわけではなく、やはり取り締まりの実効を確保するために必要な限度で立法管轄を外国船舶に及ぼしていると見るべき場合が多く、またそのためにさまざまな法理を構成することによりその必要性を正当化しているのである。

その代表的なものがいわゆる「内国性の解釈的拡張」の理論(constructive presence)である(26)。この理論は母船が領海の外にいる場合(接続水域でも公海でも区別はない)でも、それと一体をなして活動する小型舟艇によって沿岸

 

 

 

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