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疑義を排除するため、二国間での協定を結んでアメリカの法令執行権限を認めさせたり、個別の場合に異議申し立て権を放棄させる方策を取っているのである(23)。国連麻薬新条約あるいは海洋法条約の麻薬・向精神薬の不正取引の防止に関する規定は、多分にこうしたアメリカの国内法令に基づく措置を容認したものという性格をもつ。

(2) 集団密航

排除と防止という観点からもう一つわが国の国内法益保護の観点から海上における法令の執行が問題となるのは、集団密航の規制である。わが国の裁判例においては通常の密航について実行着手の時点を陸地に近づけて解釈されることは、密輸の場合と同様である。しかし集団密航の増加という事実を踏まえて、平成5年の『出入国及び難民認定法』の改正により、新たに集団密航に関する規定(74条)を設けた。すなわち「自己の支配又は管理の下にある集団密航者(入国審査官からの上陸の許可を受けないで、又は偽りその他不正の手段により入国審査官から上陸の許可等を受けて本邦に上陸する目的を有する集合した外国人)を本邦に入らせ、又は上陸させた者」を処罰する旨が定められ(74条)、その未遂を罰すると共に、さらにその前段階の行為として「自己の支配又は管理の下にある集団密航者を本邦に向けて輸送し、又は本邦内において上陸の場所に向けて輸送した者」も処罰することとし(74条の2)、そのうち「本邦内において輸送」する部分を除き、「本邦に向けて輸送」する行為については「刑法第2条の例に従う」としてその域外適用を規定し(74条の7)、それら密航者を国内で収受した罪およびその未遂と予備などを処罰対象として規定した(24)。こうして予備罪一般を処罰するのではなく、とくに本邦外において集団密航者を輸送する行為についてわが国の立法管轄を及ぼすことを明文で規定したのである。

そこでこの集団密航者輸送罪の実行着手の時点をどこに設定し、既遂の時点をどこにおくかという問題が新たに生じることとなった。わが国に向けて集団密航者を乗せて外国の港を出発した時点で実行着手を認めることが合理的のように見えるが、わが国に向けて出港したかどうかの認定は必ずしも容易ではない。

 

 

 

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