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に直接危険を生じせしめる程度によって捉えるのであれば、結局この規定は内水に向かって航行中(in-coming)の外国船舶についてのみ適用可能となる。なお海洋汚染および排他的経済水域に関する場合を除き、沿岸国は、領海に入る前に行われた犯罪に関連していずれかの者を逮捕あるいは捜査を行うためにいかなる措置をとることも禁止されている(同4項)ので、規制薬物の外国における製造、譲り受け、譲り渡しの罪、外国輸出入罪などについて、沿岸国が領海内にある外国船舶の船内犯罪である限りで、刑事裁判権を行使することはできない。そしてこうした事例に該当する場合には、外国船舶は通常の開港場に入港するはずであるから、わが国としては税関検査の段階で厳しく取り締まることによって、薬物規制法令が保護する内国法益は十分に実現され、したがって領海通航中の外国船舶内に立ち入って刑事裁判権を行使する必要は通常は生じないといえるであろう。

次に、公海上における薬物の不法取引に関して、海洋法条約は、国際条約に違反する麻薬および向精神薬の取り引きを防止するための国際協力(108条1項)と、自国船舶が不法取引を行っていることを疑うに足りる合理的な理由がある場合における旗国による他の国に対する協力要請(108条2項)について規定している。この規定は、国連麻薬新条約の規定と合わせ読むことによってその意義がより一層明らかとなる。すなわち1988年の国連麻薬新条約は海上における措置に関して、1]自国の旗を掲げる船舶または旗を掲げておらず登録標識を表示していない船舶が不正取り引きに関与していることを疑うに足りる合理的な理由を有するときは、不正取り引きのためにこれらの船舶が用いられることを防止するにあたり、他の国の援助を要請することができる(17条2項)、2]国際法にもとづく航行の自由を行使する船舶で他の国の旗を掲げまたは登録標識を表示するものが不正取り引きに関与していると疑うに足りる合理的な理由を有するときは、その旗国に通報し登録の確認を要請できるものとし、これが確認されたときは、当該船舶について適当な措置を採ることの許可を旗国に要請することができると定めている(同条3項)。なおこの2]により旗国が許可を与える場合、旗国は、船舶への乗船、捜索、不正取り引きにかかわっていることの証拠が発見された場合における

 

 

 

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