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(ロ) 海洋法と薬物犯罪規制 ところで海上における薬物犯罪の規制に関する国際法および海洋法は、既に述べた接続水域の場合を除けば、まず領海に関しては、第一に、無害通航に関して沿岸国が法令を制定できる事項として、「沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反の防止」が掲げられており(海洋法条約21条1項(h))、また無害通航権を行使する外国船舶は、それら無害通航に関する沿岸国法令を遵守する義務を負う(同条4項)とされているが、同時に沿岸国がこれら法令の適用にあたり「無害通航権を否定し又は害する実際的効果を有する要求を課すること」を禁じている(24条1項)。第二に、領海を通航中の外国船舶内で行われた犯罪に関して犯人を逮捕しまたは捜索をするために刑事裁判権を沿岸国が行使できる場合の列挙の中に、「麻薬又は向精神剤の不法な取り引きを防止するために必要である場合」が含まれている(同27条)。

このうち第一のものは無害通航に関する規定であるが、外国船舶がそれら法令に違反したとしても直ちに通航の無害性が否定されるわけではないから、船舶の同一性を確認するなど船舶外から調査を行うための措置は取りうるが、船舶の拿捕、船長の身柄の拘束などはできないものと思われる。ただし航海に通常付随しない停船、投錨、徘徊、洋上積み替え等の事実があれば、そもそも「通航」とは認められない(18条)から、そうした外国船舶にはこの規定は適用されず、沿岸国の薬物犯罪規制法を適用することが可能となろう。薬物を不法にわが国領土内に陸揚げする目的で麻薬密輸常習船が領海内を通航している場合にも、これを「通航」とは認めないこともできよう。

第二のものは船舶を介して犯罪が行われるのではなく、船舶内の乗組員あるいは旅客によって麻薬および向精神剤の不法な取り引きが行われるのを防止するために刑事裁判権を適用する特別の場合に関する規定である。外国船舶が沿岸国の内水を出て領海を通航している場合に、沿岸国が逮捕または捜査を行うために自国法令で認められている措置を取る権利については別途の規定がおかれている(27条2項)から、この規定は内水に立ち寄ることなく単に領海を通航中の外国船舶あるいは内水へ向かって航行中の外国船舶についてのみ適用可能であるが、薬物の不法取引を防止する必要性をわが国国内

 

 

 

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