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場合(2項)を除けば、「海上における犯罪が正に行われようとするのを認めた場合又は天災事変、海難、工作物の損壊、危険物の爆発等危険な事態がある場合であって、人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害が及ぶおそれがあり、かつ急を要するとき」(1項)に限定されているからである。

こうして海上において犯罪処罰のために海上保安官が行使する権限は、刑事訴訟法に基づくものとされ、また海洋法条約を批准するために、海上保安庁法の改正と同時に改正されて成立した「領海及び接続水域に関する法律」は、接続水域における我が国の公務員の執行について「我が国の法令を適用する」(5条)として、刑事訴訟法の「域外適用」を規定しているので、刑事訴訟法が場所的限定無しに全世界におよぶという解釈は否定され、限定説または管轄権説がとられたものとされる(13)

ところで限定説は刑事訴訟法の適用範囲をわが国の主権がおよぶ領域に限定するものであるが、管轄権説は「国際法上わが国の管轄権の及ぶことが認められた範囲」について刑事訴訟法の適用を認めるものであり、わが国が海洋法条約の批准のために整備した新たな海洋法制に合致するものとされる(14)。そして接続水域について執行管轄限定説をとる場合には、沿岸国として取りうる措置は、領土または領海においてなされた犯罪の処罰のために必要な規制を除き、もっぱら行政警察的な措置に限定されるから、執行権限の点からいってもin-comingの外国船舶に対して4つの特定法令への違反について処罰のためにする管轄権の行使が認められるわけではないということになる。しかし接続水域について立法管轄拡張説を取ることが国際法上も認められるという解釈に立てば、実体法の立法管轄が領域の外にまで及ぼされている場合には、なおin-comingの外国船舶についても、刑事訴訟法を適用して処罰のための停船、拿捕、逮捕を行うことも可能となる。そこで実体法の処罰法令の規定ぶりが重要な要素になってくる。

 

 

 

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