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(5) 海上保安庁の執行権限

しかも海上保安庁法は、海上保安庁を「海上において人命及び財産を保護し、並びに法律の違反を予防し、操作し、及び鎮圧する」(1条)ために設置し、かつその所掌事務として「法令の海上における励行、海難救助、海洋の汚染の防止、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他の海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに付帯する事項」を掲げており(2条)、ここに「海上における法令の励行」とならんで、これとは別に「海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕」が規定されているため、「法令の海上における励行」には司法警察職員としてなされる職務(31条)は含まれないという解釈が確定してきた(10)。つまり犯罪の捜査、犯人の逮捕など司法警察職員としての職務は刑事訴訟法によって規律されることとなる(11)
これに対して「海上における法令の励行」を確保するための措置は行政警察上の取り締まりとして性格付けられ、その際、海上保安官は「各々の法令の施行に関する事務を所掌する行政官庁の当該官吏とみなされ」(15条)、その権限については当該行政官庁が制定する規則の適用を受けるものとされた。そして平成8年に改正された海上保安庁法は17条、18条において、海上保安官が「職務」を行うために必要である場合に海上において取りうる措置について規定しているが、そこでは書類提出命令、停船および立入検査、質問(以上17条)のほか、強制処分としての船舶の進行の開始・停止、出発の差し止め、航路の変更・指定港への回航、乗組員・旅客の下船、下船の制限・禁止、積み荷の陸揚げ、陸揚げの制限・禁止、船舶相互間あるいは船舶と陸地との交通の制限・禁止(以上18条)などが列挙されている。18条については、従来、それが刑事手続の一環としての停船、拿捕にも適用があるのかについて混乱があったが、改正海上保安庁法18条は「行政警察権の行使に限定され、刑事手続の一環として停船、拿捕が行われる場合は、刑事訴訟法の解釈による、との整理がなされた」(12)とされる。18条に規定する措置がとられるのは、船内犯罪が海上の公共秩序を著しく乱す

 

 

 

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