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段階に至っていないものを、わが国の国内法秩序のなかに無理矢理引きずり込む実益はないという判断があったように思われる。また同時に、麻薬関連法令には予備罪の規定があるものがあり、予備罪を国内犯として成り立たしめるためには、実行着手の時期をできるだけ陸に近づけて解釈する必要があったのである(7)。密入国についても裁判例は、実行着手の時点について類似の立場をとっているが、密入国については出入国管理法令に予備罪が規定されていない。これはまだわが国領域に入域すらしていない者を、「わが国に(逮捕という形式で)入国させて法秩序の枠内に取り込んで他の犯罪者と同様の取り扱いをしてしまうことが適当か」(8)という別の考慮による。もっとも集団密航者とは別にそれらを営利目的で海上輸送したものについては、規制薬物の密輸の場合と同様に、その行為自体を入国管理の維持を危険に陥れるものとして扱うことが不合理であるとは思われない。そうした観点からそれら外国船舶について海上で拿捕が行うことができるのであれば、密航者そのものは処罰することなく本国に送還することもできよう。

新たに接続水域制度が設定されたものの、接続水域について上述の執行管轄限定説をとる場合には、法令の立法管轄の適用範囲には変化がないから、こうした裁判例によって確立した解釈は特に変更されることなくそのまま維持されることになる。ただし立法管轄拡張説をとって接続水域に立法管轄が及ぶと考えるのであれば、判例を変更して、予備罪との関係では領海線突破を実行着手の時点として捉え、接続水域内において予備罪を認める余地が生じる。ただし接続水域も国内であるわけではないから、これは一種の域外適用ということになり、判例変更するためには、域外適用の根拠を明確にすることが求められるであろう。もともと予備罪を実行の着手前の準備行為として広く捉えるのであれば、領海内のみならず領海外の外国船舶を含めて、より広く立法管轄を認めることも可能であったはずであり(9)、従前の裁判例が予備罪を国内犯として解釈しようとしたのは、まさに予備罪について「刑法2条の例による」というような国外犯規定がなかったからに他ならない。この点が立法的に改められない限り、接続水域を設定したとしても、当然に実行着手の時点を陸から離して領海線突破の段階に求めるというわけにはいかなかったのである。

 

 

 

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