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制としてなされる立ち入り検査に抵抗して公務の執行を妨げるなど、船舶そのものが法令違反に直接関与していることが明らかである必要があろう。追跡権の行使に継続性が要求されるのも、公海において容疑船舶以外の他の外国船舶の航行への介入を防止するためである。法令違反が現認される場合を除き、容疑船舶以外の外国船舶の航行利益への配慮は、追跡開始についても用いられる必要があり、とくにin-comingの外国船舶の場合には、相当程度の慎重さが実務において要求されることとなることは、執行管轄限定説をとっても立法管轄拡張説をとっても同様である。

(4) わが国の裁判実務上の限界

わが国がこれまで接続水域を設定していなかったことに加えて、密航あるいは密輸入に関するわが国の裁判例においては、実体法の立法管轄が抽象的には領海に及んでいるものの、具体的な行為への個別法規の適用にあたって、とくに実行着手の時期を限りなく陸土に近づけて解釈するため、実際には領海で行われた法令違反についてすら、これを処罰することが困難な場合が生じる。こうした解釈は、これまで密航あるいは密輸入が、船舶を介して行われるというよりは、船舶あるいは航空機の旅客あるいは乗組員によってなされる場合が多かったことから、必ずしも合理性を欠くものではなかった。しかし麻薬取引の常習船や集団密航船のように、法令違反行為に船舶が直接関与するような場合についてまで、こうした解釈的立場を維持することが適当であるかどうかは、別途考察を要するように思われる。すなわち実行の着手時期を領海に入域した時点に設定しない合理的な理由があるかという問題である。

たとえば麻薬の密輸に関する裁判例においては、従来、領土への搬入、陸揚げをもって「輸入」の実行着手があったものとし(6)、また関税線の突破を既遂・未遂の分岐点としている。つまり船舶や航空機が単に領海あるいは領空に入域しただけではまだ実行の着手はないものとされ、また船舶がわが国の港湾に接岸しあるいは航空機が着陸した段階でも実行の着手はないものとされている。これは一つには、麻薬関連法令が保護しようとする国内法益に対して具体的な危険が発生した時点をとらえればよいのであって、まだその

 

 

 

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