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海洋法条約は、「領海及び接続水域に関する条約」(1958年)の規定を引き継いで、特定の沿岸国法令違反の「防止」と既に領土又は領海内でなされた違反の「処罰」とを分けて規定しているが、「処罰」が「領土または領海内で行われた法令違反」に限られており立法管轄は接続水域には及ばないことを前提とする規定ぶりになっているので、「防止」のためにのみ接続水域における立法管轄の適用を認めることは、これとの均衡を失するということになる。その意味で、接続水域に固有の法的に保護さるべき沿岸国の利益が認められたわけではないという趣旨である。

(3) 継続追跡

国際法は領海および接続水域からの継続追跡を認めている(海洋法条約111条1項、公海条約23条1項)。継続追跡は「外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由がある」場合にのみ認められるものである。接続水域には沿岸国の立法管轄は及ばないとする立場(執行管轄限定説)からすれば、接続水域からの追跡は、「領土又は領海内で行われた法令違反を処罰する」ために沿岸国が必要な規制を行う場合に限られ、まだわが国領域に入域していない外国船舶に対して行使することはできないということになる。接続水域には固有の沿岸国の法益は存在しないのであるから、外国船舶が自国の法令に違反することを「防止する」ための必要な規制は、もともとわが国周辺海域から当該船舶を退去させて排除するにとどまり、したがって接続水域外の公海に当該船舶が逃亡すれば「排除」の目的が達成され、そもそも公海への追跡を議論する余地がないということになる。これに対して接続水域にも特定法令の立法管轄が及ぶとする立場(立法管轄拡張説)からすれば、接続水域内でも沿岸国の法令への違反が生じうることとなり、必要であれば容疑船舶を公海まで追跡することも可能となる。

いずれにしても、法令違反が現認される場合を除き、追跡がいずれの海域から開始されるにせよ、外国船舶の通航権を侵害することのないよう最大限の注意が払われる必要があり、そのためには事前の情報収集によって法令違反に係る容疑船舶の同一性が確認されているとか、徘徊したり不必要な停船などを行っている不審船が検査を拒否して逃走するとか、あるいは必要な規

 

 

 

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