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て法制化した関税水域制度においては、そのような見解の根拠となる要素もある。もっとも関税水域制度においては、沿岸国が容疑船舶を拿捕できる範囲は、特定の距離基準によって海域が指定される場合と、二国間での条約に基づいて被容疑外国船舶の航行速度で一時間航程の範囲とされるような場合とが混在しており(5)、追跡権の制度との間に明確な制度的区別はなかった。また、容疑船舶そのものは領海に入っておらず、その意味で犯罪の実行着手がない場合でも、沿岸国の国内法制上、領域内にある協力者との謀議によって犯罪の成立を認めるいわゆる共同謀議(conspiracy)の法理が適用される場合には、そもそも容疑船舶がin-comingであるかout-goingであるかは、重要な要素ではなかった。追跡権と区別された海域制度としての接続水域が認められるようになったことにより、こうした見解の対立が生じるようになる。

国際法の解釈としては、この対立は依然として未決着の問題である。それは、結局、接続水域制度の導入において「領土又は領海における沿岸国法令の違反」を防止するために沿岸国が「必要な規制」(control)を行いうるとされた法令が、通関、財政、出入国管理、衛生に関連するものに特定されたことの意義をどう解釈するかに帰着する。沿岸国が現場の状況を的確に判断でき、あるいは情報収集の努力によって国内法令違反を常習的に行っている不審船を特定できることを一般的に前提できるとすれば、国際法による沿岸国法令の特定は、少なくともそれら法令については接続水域に立法管轄を及ぼすことを認めたものと解釈しても、沿岸国による航行介入の濫用につながる危険は必ずしも大きくないとみることもできる。

他方で、接続水域があくまで公海であることを強調する立場からすれば、接続水域において沿岸国が必要な規制を行う根拠となる沿岸国法令が特定のものに限定されたことは、沿岸国の国際航行への介入を極力排除しようとするものであり、沿岸国の利益保護のためのギリギリの妥協として、それら法令違反を防止するための特別の執行権限を沿岸国に与えたものと解釈すべきこととなり、それ以上の拿捕・逮捕などの規制を行う場合には、その適法性の挙証責任は沿岸国にあるということになる。

 

 

 

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