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Zにもこの点について刑事責任を負わせるためには共謀共同正犯という構成をとる必要があったのである。本判決は、公海上の外国船舶内で公務執行妨害行為の結果として発生した傷害罪について共謀共同正犯を認めた点で先例として重要な意義があると思われる。

(3) 公務を妨げる行為の結果として他の法益を侵害する行為

ところで、新領海法3条には「法令(罰則を含む)を適用する」という包括的な規定があるだけで、「職務の執行を妨げる行為」に対してどのような罰則が適用されるかについては解釈論に委ねれており、その範囲をめぐっては周知のような対立がある(18)。そして、公務執行妨害罪が適用されることについては争いはない。問題は、それ以外の犯罪類型をどこまで含むとみるかであるが、職務の執行を妨げる効果を持つような行為である限り、できる限り広く国外犯を処罰したいというのが立法者の意思であるとされている。しかし、立法者の意思はともかく、往来危険罪から窃盗罪まで幅広く認めるという解釈には、「追跡権の本質」及び「罪刑法定主義」の観点から自ずと限界があるように思われる。

まず、第一に、追跡権は、沿岸国の立法管轄権が及ぶ海域で実行された違反行為について、公海部分までその執行管轄権を延長するもので、その結果として、司法管轄権も認められるものであるが、立法管轄権まで当然に延長されるものではないと思われる。正当な継続追跡権の結果として、公海上の外国船舶内での公務執行妨害罪の成立が認められるのは、海上保安官を被追跡外国船に派遣し巡視船の指揮に服させたことによって、旗国の管轄権は実質的に排除され、当該船舶に対する我が国の執行管轄権が及んだことにより、外規法違反の事実で被疑者を逮捕する権限が生じ、その実効性を確保するために公務執行を妨害する行為を処罰する権限が認められたにすぎない。決して、公海上の外国船舶が日本船舶内と見なされるわけではないので、そこで行われた法益侵害行為に対して広く我が国の処罰権限が及ぶと解すべきではない。このように、追跡権の本質からは、外規法違反の罪について延長された執行・司法管轄権の実効性を確保するために必要最小限度の罪に限定されると解される。

 

 

 

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