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ところが、国連海洋法条約の批准に伴い、新領海法3条は「我が国の内水又は領海から行われる国連海洋法条約第111条に定めるところによる追跡に係る我が国の公務員の職務の執行及びこれを妨げる行為については、我が国の法令(罰則を含む。)を適用する。」と規定し、公海上にある外国船舶上での海上保安官の職務執行を妨げた場合についても罰則の適用が明文化された。

(2) 新領海法3条の適用と共謀共同正犯

本件長崎地裁判決は、この新領海法3条の規定を適用して公務執行妨害罪の成立を認めた我が国初の裁判例である。その際、本判決が、被告人X、Y、Zの三名を共謀共同正犯と認定した点は特に注目に値する。なぜなら、もしX、Y、Zがそれぞれ公務執行妨害罪の実行行為を行っていると認定できれば、少なくとも、公務執行妨害罪に関する限りあえて共謀共同正犯を適用する必要はないからである。

判決文からうかがえるX、Y、Zの公務員に対する暴行の事実関係を次の通りである。巡視船いなさからA〜Fの6名の海上保安官がマングー号に移乗し、A、B、Cが右舷側から、D、E、Fが左舷側から船橋に上がろうとしたところ、被告人である船長Xは右舷側から上がってくるA〜Cに角材を振り回して抵抗し、角材はAのヘルメットを直撃したほか、XにとびかかったBの顔面を手拳で殴打し、船外に押し出して海中に突き落とそうとした。一方、被告人Yは、Xの「防げ」の声に応じて船橋から左舷側に出て、左舷の階段から上ろうとしているDに対して角材を振るい、船橋によじのぼろうとしているEをウインチ部分に突き落とすよう押し、他方、被告人Zも、Xの「操舵室に上げさせるな」の指示により、左舷側で角材を振り回した。そして、Xの暴行により、Bに全治6日の傷害を負わせている。

裁判所は、被告人X、Y、Zに公務執行妨害罪及び傷害罪の共同正犯が成立すると判示してる。公務執行妨害罪だけであるなら、X、Y、Zがそれぞれ同罪の実行行為を行っていると認定できるので単独正犯が成立する。

したがって、共同正犯にした意味は傷害罪の点にあるといえよう。すなわち、Xの暴行によってBが負傷したことが明らかであるにもかかわらず、Y、

 

 

 

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