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また、通常の判断能力を有する一般人にとって、旧日韓漁業協定の条文規定から、漁業水域には領海が含まれない点を読み取るのは必ずしも容易なことではないので、場合によっては、行為者に「禁止区域」の認識が欠けていると考えられる場合もあり得る。そのような時は、自然的事実の認識はあっても「意味の認識」に欠けるとしてそもそも「故意」が否定されることになる。

犯罪の認定に当たっては、違法性の判断と責任の判断は厳格に区別すべきとされている。被告人の行為が客観的に違法であっても主観的に責任を問えない場合もあり得るので、外規法違反の罪の成否を検討する際にも、この点を常に念頭に置かなければならないように思われる。

 

4. 公海上における追跡権の行使と公務執行妨害罪等の成否

 

(1) 追跡権の行使と公海上での公務執行妨害

国連海洋法条約111条1項は、「沿岸国の権限ある当局は、外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があるときは、当該外国船舶の追跡を行うことができる。この追跡は、外国船舶又はそのボートが追跡国の内水、群島水域、領海又は接続水域にある時に開始しなければならず、また、中断されない限り、領海又は接続水域の外において引き続き行うことができる。」と規定し、沿岸国に、その国内法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由のある外国船舶を公海上まで継続して追跡する権能を認めている(13)

この追跡権は、沿岸国の立法管轄権が及ぶ海域で実行された違反行為について、公海における旗国主義の重要な例外として、公海部分までその内国警察権を延長するもので、一九世紀後半から、国際慣習法上認められ、国連海洋法条約111条でその要件が詳細に規定されるようになったものである。

追跡権の行使が正当に行われる限り、追跡される外国船舶は追跡と取締りを免れることはできないが、追跡権の行使として臨検・拿捕が行われた結果として、刑事裁判権の行使が認められるかについては条約上は特に規定はない。しかし、国際慣習法上は拿捕した追跡国の裁判所の管轄が認められているとされている(14)

 

 

 

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