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したがって、旧日韓漁業協定が、我が国の領海における主権行使を制限する内容を含むものであって初めて新領海法や外規法との効力の優劣が問題となると思われる。

ところで、「漁業水域」という概念は、歴史的には、領海に接続する海域、すなわち、公海に設定される水域として提唱されたものであるとされている(10)。そして、旧日韓漁業協定も、領海に関しては触れることなく、領海に及ぶ包括的かつ排他的管轄権の一部である漁業に関する排他的管轄権を領海外の公海に及ぼすことを認めたものであり、領海における主権の行使を制限するものではないと思われる。

このことは、旧日韓漁業協定の文言からも明らかであるように思われる。領海においては、包括的な管轄権が認められるので、漁業に関する排他的管轄権を行使することについて他国の承認は不要なはずである。しかし、旧日韓漁業協定1条1項は、「漁業に関して排他的管轄権を行使する水域として設定する権利を有することを相互に認める」とされている。また、領海であれば主権に基づき他国の漁船が漁業に従事するのを排除できるのに、旧日韓漁業協定1条2項では「排除することについては違いに異議を申し立てない」とされている。このことからも、旧日韓漁業協定において設定が認められた「漁業水域」は、領海内に設定されるものではなく、漁業に関する排他的管轄権を領海外の公海に及ぼすものであることは明らかであろう。それに、そもそも漁業水域を領海と重畳的に設定する意味は全くないといえよう。

したがって、旧日韓漁業協定はあくまでも「漁業水域」に関する協定にすぎず、我が国の領海における主権行使を制限する内容を含むものではないので、優劣を問題にする余地はないと思われる。

このように考えると、旧日韓漁業協定は、国家が領海に対して主権を及ぼしていることを当然の前提として、領海の外側の公海に「漁業に関する水域」を設定できることを認めたものであり、国際法上の公海自由の原則に基づき公海上における取締り権限及び裁判管轄権につき、いわゆる旗国主義によることを確認したものであるから、4条1項にいう「漁業に関する水域の外側」とは、領海以外の海域で、かつ、漁業に関する水域の外側をいうと解される。

 

 

 

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