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旧日韓漁業協定1条1項は「両締約国は、それぞれの締約国が自国の沿岸の基線から測定して12海里までの水域を自国が漁業に関して排他的管轄権を行使する水域(以下「漁業に関する水域」という。)として設定する権利を有することを相互に認める。」と規定し、4条1項は「漁業に関する水域の外側における取締り(停船及び臨検を含む。)及び裁判管轄権は、漁船の属する締約国のみが行い、及び行使する。」と規定している。そこで、直線基線の導入に伴う新しい領海は、この日韓漁業協定に基づく漁業に関する水域の外側に位置することから、新領海における韓国漁船による違反操業については、4条1項により、我が国の主権が一部制限され、我が国は取締りや裁判管轄権を持たないのではないかという疑問が生ずる。

この点につき、弁護人は、旧日韓漁業協定には、漁業水域が公海上に定められるとか、領海の外側にしか存在し得ないという規定はなく、協定が定められた当時日本の領海は3海里であったが、領海の拡張によって協定の定める「漁業水域」が消滅するとの規定もないので、通常基線から12海里の外側では相手国漁民に自由操業を許容する「漁業水域」と、直線基線から12海里内で日本に排他的管轄権を認め(漁業水域の外側であっても)韓国漁民に自由操業を認めない「新領海」とは矛盾抵触する状況にあるとし、本件海域は、外規法3条と旧日韓漁業協定4条1項の規定の双方が競合適用になる海域であるから、条約が法律に優先するという原則により、旧日韓漁業協定4条1項が優先適用になると主張した。

そして、被告人に公訴棄却を言い渡した第909テドン号事件一審判決も、同様の論理で当該海域には我が国の執行・司法管轄権は及ばないと判示している。そこで、このような見解が妥当であるかがまず問題とされなければならない。

(2) 旧日韓漁業協定と執行・司法管轄権

弁護人も、第909テドン号事件一審判決も、「条約は法律に優先する」という論理を盾にこの問題を解決しようとしている。しかし、条約と法律という二つの法規範の効力の優劣関係が問題となるのは、各法規範が同一の事項に関して定めており、その内容が抵触する場合に限られる(9)

 

 

 

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