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(3) 本判決の意義

直線基線を採用したことにより領海が拡大した海域(新領海)で操業を行い、外規法違反等で起訴された韓国人被告人側から、新領海における韓国漁船による漁業に関して、旧日韓漁業協定により日本には取締り及び裁判管轄権が認められないと争われた裁判例としては、本判決の前に、韓国あなご籠漁船第909テドン号事件一審判決(5) がある。

同判決は、旧日韓漁業協定は、日本と韓国のいずれの領水に属しない海域だけに限定した取り決めであると解することはできず、条約である日韓漁業協定が外規法に優先するので、新領海における韓国漁船による漁業に関して日本に取締り及び裁判管轄権はないとして、公訴を棄却した(6)

そこで、本件の動向が注目されていたが、長崎地裁は、直線基線の採用により新たに領海となった水域における領海侵犯操業に対して、初めて、正式裁判で外規法を適用し被告人を有罪としており(7)、この点に本判決の第一の意義がある。そして、本判決後、第909テドン号事件控訴審判決が出され、本判決とほぼ同様の論理で一審判決を破棄し差し戻した。

他方、我が国は、国連海洋法条約批准に伴い関連国内法を整備したが、その際制定された新領海法において、公海上の外国船舶についても領海等から追跡権を行使することが明文で認められた。本判決は、新領海法に基づく追跡権行使により公海上の外国船舶上において公務執行妨害罪等の成立を認めた初めての判決である。

そこで、本判決が提起したこれらの問題点について、もっぱら刑事法の視点から若干の検討を試みることにしたい。

 

3. 新領海における外国人漁業と外国人漁業規制法3条違反の罪の成否

 

(1) 問題の所在

本件被告人Xに、外規法3条違反の罪が成立するためには、その前提として、我が国に同法に基づく執行管轄権及び裁判管轄権が存在しなければならない。本件の最大の争点は旧日韓漁業協定4条1項にいう「漁業に関する水域」とは何かという点である。

 

 

 

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