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本件海域は、我が国の沿岸の基線(いわゆる通常基線)から測定して12海里より外側にあるため、平成8年の新領海法令施行前は、旧日韓漁業協定1条1項本文の「自国が漁業に関して排他的管轄権を行使する水域」(以下「漁業に関する水域」という。)の外側であり、我が国には取締り及び裁判管轄権がなかったが、新領海法令によって、新たに日本の領海とされた海域であった。

そこで、検察官は、被告人の行為を、日本の国籍を有しない者が本邦の水域において漁業を行うことを禁じた「外国人の漁業の規制に関する法律」(以下、「外規法」という)3条1号に違反し、これに対して3年以下の懲役もしくは400万円以下の罰金を規定する9条1項1号に該当するとして公訴を提起した。

これに対し、弁護人は、新領海法によって日本の領海を決定する基線が直線基線に変更され領海が拡張されたが、二国間の特別条約である旧日韓漁業協定が国内法に優先するので、被告人の操業水域が「漁業に関する水域」の外側である以上、日本に取締りや裁判管轄権はなく、したがってその地点からの追跡権も認められないとして、本件公訴は棄却されるべきである旨主張した(3)

(2) 長崎地裁判決の内容

長崎地裁は、以下のように判示して弁護人の主張を斥け、被告人Xには外規法違反の罪のほかに公務執行妨害罪及び傷害罪が成立するとして懲役2年6月(執行猶予3年)及び罰金150万円を、被告人Y及びZには公務執行妨害罪及び傷害罪が成立するとしてそれぞれ懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡した(4)

「確かに日韓漁業協定4条1項は、漁業水域の外側における取締り及び裁判管轄権を旗国のみが行い、及び行使する旨規定しており、当該水域が漁業水域の外側である以上は、これが領水であったとしても、やはり旗国のみが取締り及び裁判管轄権を有することを定めた規定であるようにみえなくもない。

 

 

 

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