(4) 貯蓄金管理の制限
強制貯蓄金については、船舶所有者の船員に対する足どめ策となり、労働強制をまねくこととなり、また、船舶所有者が事業資金に流用し、払戻しが困難となるおそれがあるため雇入契約に付随して、貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をすることはできないこととなっている(第34条第1項)。また、仮りに、船舶所有者が、これらの契約によらず船員の委託を受けてその貯蓄金を管理しようとする場合は、次に掲げる手続きをとらなければならないこととなっている(第34条第2項、則第16条の2)。
1] その使用する船員の過半数で組織する労働組合、これがないときは船員の過半数を代表する者と次に掲げる事項を内容とする書面による協定をし、当該協定書及び貯蓄金管理協定届出書(則第五号書式)を所轄地方運輸局長に提出しなければならない。
〔i〕 貯蓄金の管理が預金の受入れである場合
イ. 預金者の範囲
ロ. 預金者1人当たりの預金額の限度
ハ. 通帳の発行その他貯蓄金の受入れを証する方法
ニ. 管理の方法
ホ. 利率、複利単利の別その他の利子の計算方法
ヘ. 返還の方法
〔ii〕 貯蓄金の管理が預金の受入れでない場合
イ. 受領書の発行その他貯蓄金の受入れを証する方法
ロ. 管理の方法(預入者の名義、預入先の名称、預入れの種類及び利子又は配当金の管理方法を含む。)
ハ. 通帳、印鑑等船舶所有者の管理すべきものの範囲
ニ. 返還の方法
2] 上記( )の場合には、船舶所有者は年1分以上の利率による利子をつけなければならない。(第34条第3項、則第16条の2第3項)。
3] 2]の場合にはさらに、毎年4月30日までに、預金管理状況報告書(則第五号の二書式)により、一年間における預金の管理の状況を所轄地方運輸局長に報告しなければならない(則第16条の2第4項)。
(5) 相殺の制限
給与債権の相殺については、船員の生活権の侵害につながるおそれがあるため、船舶所有者は、相殺の額が給料の額の3分の1を超えないとき及び船員の犯罪行為による損害賠償請求権をもってするとき以外は、船員に対する債権と給料の支払の債務とを相殺してはならないこととなっている(第35条)。
(6) 労働条件の記載等
雇入契約が成立したときは、その確認と、以後の遵守を図るため、雇入契約により定められた労働条件を海員名簿に記載して、これを海員に示さなければならないこととなっている(第36条)。