具体的には、
1] 船員法の規定が労働条件の最低基準を定めたものであること(労働基準法第1条)。
2] 労働条件の決定は、船員と船舶所有者とが対等の立場において決定し、労働協約等を互いに尊重、遵守すべきこと(労働基準法第2条)。
3] 船員は国籍、信条、社会的身分を理由に労働条件について差別されず、女子であることを理由に賃金について差別されないこと(労働基準法第3条、第4条)。
4] 強制労働、中間搾取は禁止されること(労働基準法第5条、第6条)。
5] 公民権の行使は保障されること(労働基準法第7条)。
という労働基準法の労働憲章的原則は船員法の基本原則ともなっている(労働基準法第116条)。
〔II〕 船長の職務権限及び船内規律
船員法は、航行組織体の長たる船長に一定の公法上の権限を与えるとともに、一定の義務を課し、また船内規律について定めることにより船舶航行の安全確保を図っている。
1. 船長の権限
(1) 船長は、海員を指揮監督し、かつ、船内にある者に対して自己の職務を行うのに必要な命令をすることができることとなっている(第7条)。
(2) 従って、船長には船内規律の規定(第21条)に違反した海員の懲戒権(*1)が与えられる(第22条)とともに、海員、旅客その他船内にある者の所持する危険物やその者の行う危険行為に対し危険を防止するために必要な処置をとる等の強制権の行使が認められている(第25条〜第28条)。
(*1) ただし、船長は、海員を懲戒しようとするときは、3人以上の海員を立ち会わせて人及び関係人を取り調べた上、立会人の意見を聴かなければならない(第24条)。また、懲戒の種類は、上陸禁止及び戒告の2種類で、上陸禁止の期間は停泊日数のみの日数で、10日以内となっている(第23条)。
(3) 船長は、海員等船内にある者が人命等に危害を及ぼしその他船内の秩序を著しく乱す場合に必要があると認めるときは行政庁に援助を請求できる(第29条)とともに、船舶の航行中船内にある者が死亡したときは、これを水葬に付すことができることとなっている(第15条)(*2)。
(*2) ただし、船長は死体を水葬にするためには、
1] 船舶が公海にあること。
2] 死亡後24時間を経過したこと。(伝染病に困って死亡したときを除く。)
3] 衛生上死体を船内に保存することができないこと。(船舶が死体を載せて入港することを禁止された港に入港しようとするときその他正当の事由があるときを除く。)
4] 医師の乗り組む船舶にあたっては、医師が死亡診断書を作成したこと。
5] 伝染病に困って死亡したときは、伝染病予防法及びこれに基づいて発する命令の規定による消毒法を施したこと。
のすべて条件を備えていなければならない。
また、死体を水葬に付するときは、死体が浮き上がらないような適当な処置を講じ、かつ、なるべく遺族のために本人の写真を撮影したうえ、遺髪その他遺品となるものを保管し、相当の儀礼を行わなければならないこととなっている(則第4条、第5条)。