先に見た香港・マカオの対中直接投資の多さを考え合わせるならば、当然、そのかなりの部分が中国全体の直接投資受入額の1/4を占める広東省向けであることになる。とりわけ広東省は香港(およびマカオ)と隣接する省であるため、香港系企業の委託加工先として多くの香港系企業が深塙経済特区をはじめとする広東省に生産拠点を移転させ、その「モノ作り」部門を移していった。それは一面では香港経済の広東省への拡大という側面、すなわち、頭脳部分の経済機能の集積地としての香港と、そのいわば「手足」としての「モノ作り」の現場の立地点としての広東省という構図を持つものであったが、同時に香港製造業の空洞化という側面をも持つものであった。
図表II-2-10には広東省の経済成長が示されている。広東省は90年代にきわめて高いGDP成長率を示したが、その成長を支えたのは輸出志向型産業を中軸とする工業生産であった。広東省の工業生産は同省の低廉な生産要素(ヒト、土地等)と香港系企業をはじめとする外資が結びつくことによって急激な成長を可能としてきたのである。
一方、香港経済はGDP総計で見ると年々成長していってはいるが、製造業は92年の998億香港ドルから96年の801億香港ドルへと後退、GDP構成比も13.6%から7.2%へと低下している(図表II-2-11)。香港経済が成長する一方で、香港製造業そのものは空洞化しつつある。
製造業の香港から広東省をはじめとする中国への移転は、コンテナ物流面から見るならば、コンテナ物流需要の香港から広東省およびその他中国諸地域への分散ということになる。