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そこで、ここでは、現行経営と神戸港を併合した経営の間に見られる行動変数の機能の差に注目しよう。その特徴は以下のとおりである。

・ 日本のアジア9か国・地域向けの直接投資の作用の程度とその安定性には大きな差はない。

・ アジア9か国・地域のGDPの作用は、神戸港を併合した経営の方が現行経営の60%程度のレベルにあり、劣っている。

・ 日本とアジア9か国・地域の為替相場比率の作用は、神戸港を併合した経営の方が現行経営よりは約40%高く、しかも弾性値の有意水準は現行の10%レベルから0.1%レベルへと大きく上昇している。

・ 戦略変数であるコンテナ化率の作用の程度は異ならないが、有意水準で見た安定性は神戸港を併合した経営の方が高い。

・ 戦略効果変数といってよい神戸港のコンテナ貨物集中度は、神戸港を併合した経営によって、単独経営では神戸港との競合状態を示すマイナス符号であったものが、その協調経営状態を示すプラス方向に弾力性の方向が逆転し、神戸港との運命共同体状態になったことが注目される。

総合的にみれば、大阪港は、現行の単独経営状態から神戸港を併合した経営に移行することによって、従来不安定であったアジアの為替相場の作用とコンテナ化率の作用が安定性を増し、その結果港湾の輸出行動を支えるあらゆる要因が拠点港湾に相応しい機能を持つことになる。しかもそれと共に大阪港の神戸港に対する位置付けは大きく変化し、神戸港と協調する港としての地位を同時に得ることになる。

このことを大阪港が評価しないならば、大阪港は神戸港を併合した経営に移行する必要はない。しかも、同じ併合といっても、すでに図表I-3-7で見た大阪港を併合した神戸港の経営の方が、ここで考察した神戸港を併合した大阪港の経営よりも、とりわけアジアの経済成長を輸出物流の喚起と結び付けると言う意味においては優れている。

しかし、より根本的に注目しなければならない点は、神戸港の現行経営、事業部制的経営、大阪港を併合した経営の3つの経営形態の間に成立していた、コンテナ化率と神戸港のコンテナ貨物集中度の間にみられるトレードオフ関係が、上に見た神戸港を併合した大阪港の経営をも含めて整合的に成立していると見られることである。これは、コンテナ化率の作用は高いほど好ましく、一方神戸港のコンテナ貨物集中度は、神戸港の競争力が低下している現在のような情況では、むしろ低い値をとるほうが望ましいからである。その政策的に意味する所は、神戸港の現行経営ならびに神戸港の既存経営方式の下での事業部制的経営と大阪港を併合した経営、ならびに大阪港の既存経営方式の下で神戸港を併合した経営の合計4つの経営形態が、同一の生産等量線上でトレードオフの関係にあるというものである。この関係は、いわば政策的には同一のループの上を動く経営形態の選択問題であり、このループからのがれることができない。

 

 

 

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