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それが既存経営方式を踏襲する場合の特徴であるとともに、まさにその限界でもある。

その限界の中でも明らかになったことは、大阪港が現行経営や事業部経営方式を採ることによって、神戸港を併合したケースに比較してかなりのデメリットを被っている点である。大阪港は現行の単独経営からの脱却をいずれにして模索せざるを得ない状況におかれているのである。

 

(4) 神戸港と大阪港を完全に合併した新方式の下での経営

ここでは、神戸港と大阪港の経営が、完全に合併したというバーチュアルな環境の下で、全く既存の行動様式に制約されない、最も確実で信頼性が高い行動変数が選択される。神戸港と大阪港の輸出物流量の合計を、極めて有意に決定する行動関数の推定結果は図表I-3-9に掲載されている。その中で、主要行動変数の弾性値を、韓国向け輸出物流のケースを標準計測値として抽出して示したのが、図表I-3-10である。そこには、すでに明らかにした神戸港型経営の下での合併経営と大阪港型経営の下での合併経営のケースも合わせて掲載されている。

図表I-3-10にしたがえば、完全合併の経済効果を以下のように評価できる。

・ 日本のアジア9か国・地域向けの直接投資の作用の程度とその安定性で最も優れているのは大阪港型の合併経営のケースである。完全合併は、これに次ぐ成果を上げているが、その差はほとんどないといってよい。

・ アジア9か国・地域のGDPの作用は、神戸港型の合併経営のケースが最も優れている。完全合併の弾性値はその80%レベルにある。

・ 日本とアジア9か国・地域の為替相場比率の作用は、完全合併経営が最も優れており、弾性値でみて、神戸型合併経営の2倍、大阪型合併経営の2.5倍の効果を持っている。

以上の港湾輸出物流を決定する主要な3つの経済要因の総合作用については、完全合併経営と神戸港型合併経営の間ではほとんど差はみられない。大阪港型合併経営は、これに比べるとアジア9か国・地域のGDPの作用においてかなりの劣位にある。

これに対して、港湾サービスの変化に関わる要因についてはどうであろうか。

・ 戦略変数であるコンテナ化率の作用は、完全合併によって、神戸港型合併経営の3倍以上、また大阪港型合併経営の8倍以上にも改善する。

・ 戦略効果変数といってよい神戸港のコンテナ貨物集中度は、大阪港型合併経営のレベルにほぼ等しく、神戸港型合併経営の効果を上回っている。

このように、完全合併によって、従来の神戸港型あるいは大阪港型の合併経営のケースにみられたコンテナ化率とコンテナ貨物集中度の間のトレードオフ関係、あるいは同じループ上において成立する代替的関係は、さらに高いレベルに位置する新たな関係へと移行したのである。なぜなら、もし両要因が従来通りの単なるトレードオフ関係にあるとすれば、コンテナ化率の作用の大幅な改善によって、逆に神戸港のコンテナ貨物集中度弾力性は、従来レベルを越えて大きく増加しなければならないにも関わらず、現実にはほとんど変化していないからである。

 

 

 

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