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この状況は、ヨーロッパ航路市場の同盟が、明らかにかつての典型的な閉鎖型同盟とは様変わりしていることを示唆するに十分である。まずハード面で指摘すれば、かつての閉鎖型同盟の採用した参入阻止型運賃決定方式では、市場支配力(水平的統合)が増加(強化)したときには、参入阻止力を一段と発揮するため運賃を引き下げ、逆にその支配力(水平的統合)が衰える(弱体化する)と体制順応的に運賃を引き上げて、参入阻止運賃のレベルから離れようとしたのである。ところが今やこのような閉鎖型同盟の美徳と呼ぶべき行動は生じていない。現在は、水平的統合の変化に応じて、運賃は、それと同方向に、しかも極めて弾力的に変化する。またかつての同盟であれば、船型の大型化も参入阻止を図るべく、運賃の引き下げに結び付けたであろうが、現在はそうではない。

このように、ハードレベルでの直接的対応がプラスの運賃変動効果を生むのは、同盟が完全にその行動を市場順応的に転換したからである。しかし、この市場の弱さの原因は、ソフト面で指摘したように、好景気を運賃の引上げに生かせていないこと、サービスの垂直的統合を図る複合輸送戦略が付加価値戦略として機能していないことに加えて、決定因の弾力性が極めて大きいことを挙げておかなければならない。その結果、考察期間の13四半期間においては、ハード面とソフト面の対応効果が相互に相殺され、運賃は西航市場で30%近く下落している。

このように、企業、産業、さらには市場の決定に対する運賃変動の反作用が大きい場合には、結局戦略的に何もなさないことが、運賃の安定に繋がる。しかしいったん闘争が始まれば、その影響は大きくなり、お互いの戦略の裏をかいた積もりが、結局は市場構成員全員が損を被るという、囚人のジレンマ的なゲーム展開に陥いるであろう。アジアからヨーロッパに向かう西航市場では、まさにこのような囚人のジレンマによって誘発された、ゲーム論的な闘争的寡占市場にあると見られる。

 一方、西航市場の運賃は、東航市場に比べて低レベルではあるが、比較的安定して推移している。それは、シーランドやヤンミンなどの盟外船社がEAE(Eastbound Management Agreement)に参加するなど、協調的気運が強いからである。

 

(3) 大西洋市場の構造と行動─行動相違型ラグ反応モデル─

大西洋市場の運賃決定関数の計測にあたっては、アメリカからヨーロッパに向かう東航市場にベースをおき、この逆方向のヨーロッパからアメリカに向かう西航市場の構造あるいは行動との相違を確認する。

図表I-2-8の計測結果に見るように、大西洋市場の運賃決定モデルが、構造相違型ではなくて、行動相違型に従う事は、一目瞭然である。ヨーロッパからアメリカに向かう西航市場の運賃レベルのみが相違するという構造相違型モデルでは、そのために導入した構造要因が全く機能しない上に、運賃決定メカニズムの輪郭さえも明らかにする事はできなかった。その程度は、太平洋市場における構造モデルと比較しても雲泥の相違がある。

 

 

 

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