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4. 総合考察および今後の課題

今回の研究で試料として用いたフランスガキは、本来同一群のものである。これを異なる4地点に移して垂下飼育を行い、定期的に各々から試料を採集して性成熟の進行や貪食能を中心とした生体防御能を測定・比較したところ、移動から約1ケ月後の測定の段階で、すでにいくつかの項目で違いがみられるようになり、その後も各々の採集場所で特徴的な結果を示した。このことは、ある程度予想されたことではあるが、フランスガキの生理は環境要因(外的要因)の違いやその変化の影響を強く受けていることが明らかとなった。それと同時に、個体にとって生理的に大きなイベントである性成熟の進行と最終的な放卵・放精という内的要因の変化に対しても他の組織の状態やそこに含まれる因子の活性が非常に大きな影響を受けて変動していることが明らかとなった。特に、放卵・放精は非常に大きなエネルギー放出を伴うものであることはよく知られたことであり、その結果個体の生理が受ける影響は大きい。生体防御能の発現もフランスガキ個体の生理機構に立脚する現象であるから、この放卵・放精の時期には、異物に対する貪食能を中心とした生体防御能の発現・活性の強さに対して、内的要因の影響の方が外的要因の影響よりも大きくなっている可能性を示すことができたことは、今回の調査・研究の主題とは異なるものであるが、重要な成果であったと考えられる。

今回の研究の目的は、「そこに棲む生物の生理的な状態を把握し、それに基づいて環境を評価する方法、すなわち生物に主眼を置いた環境評価法の確立」である。これを達成するためには、生物の置かれている環境条件の正確な把握は勿論重要ではある。しかし、生物に対する環境条件の影響を適切に評価するためには、環境条件を正確に把握するだけでは不十分であり、むしろそれと同等に、あるいはそれ以上に重要であると考えられるのは、そこに棲む生物、対象とする生物が現在どのような生理的な状態を迎えているのか、例えば成熟期なのか、成長期であるのかなどを正確に知ることであろう。すなわち、生理的な状態の違いにより、環境条件の変化から受ける影響の強さが自ずと異なってくるからである。その上で、対象とする生物の生理的な状態についての評価基準を定め、その変化を知ることで置かれている環境を評価するのである。

 

 

 

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